7歳でフランツ・フェルディナンドと出会う

――そもそもTaitoさんは、どんなきっかけで音楽に目覚めたのですか?

Taito「7歳くらいのときに、SONYのCMで流れるフランツ・フェルディナンドの“Do You Want To”(2005年)を聴いたのがきっかけですね。〈これが世界で一番かっこいい音楽だ〉と思った。それと同じくらいの時期に、ダンディ・ウォーホルズの“Bohemian Like You”(2000年)もCMで流れていて。この2曲は楔のように、今も僕の胸に突き刺さったままです(笑)」

ダンディ・ウォーホルズの2000年作『Thirteen Tales From Urban Bohemia』収録曲“Bohemian Like You”
 

――楽器を始めたのは?

Taito「小学校に入学した年のクリスマスに、リビングへ降りていったらそこにPearlのドラム・セットが置いてあったんですよ。〈……これは、やらないとダメなのかな〉と(笑)。親も、10歳上の兄貴も音楽が好きだったから、僕にもバンドをやらせたかったんでしょうね。そのときは喜んだフリをしていましたが、実際は家族による無言のプレッシャーでドラムをはじめたんです」

――すごい家族ですね(笑)。フランツとダンディ・ウォーホルズのほかにはどんな音楽を聴いていたのですか?

Taito「グリーン・デイやジェットのような、ポップなロック・ミュージックばかり聴いていました。兄がバンドに詳しい上に、なんでも聴く人で。彼のパソコンを勝手に触って好きな楽曲を探していましたね。そのあたりからジーザス&メリーチェインのような、ちょっとイビツな音楽も好きになっていたんですが、当時はシューゲイザーやポスト・パンクといった言葉もまだ知りませんでした」

――実際にバンド活動を始めたのはいつ頃から?

Taito「ドラムはずっと習っていたんですが、自発的にバンドをやり始めたのは高校生くらいからです。その時はドラムではなく、ギター&ヴォーカルを選びました。やっぱりヴォーカルがバンドでいちばんかっこいいなあと思っていたので……(笑)。Whisper Voice Riotというシューゲイザー系のバンドを結成して、当時人気のあったエックスラヴァーズみたいなサウンドを鳴らしていました」

岩本「エックスラヴァーズ、懐かしい(笑)!」

エックスラヴァーズの2012年作『Moth』収録曲“You Forget So Easily”
 

Taito「Whisper Voice Riotは1、2年で解散してしまうんですけど、やっぱりフランツが頭の片隅にずっとあったんでしょうね。次はメロディーの強い、ポップなポスト・パンクを追求しようと思って始めたのがMississippi Khaki Hairでした。Whisper Voice Riot時代から残っているメンバーはベースのDaiki Usuiだけで、他のメンバーはもう15回くらい入れ替わってます。ようやくいまの編成に落ち着いたのが今年に入ってからです。

ちなみにギターのAckeyは、ライブ中に俺が『ギター探してるんだけど、誰かいい人おったら教えてください』と言ったらその場で手を上げよったんで入ってもらいました」

――へぇ(笑)!

Taito「ドラムのBnZ Machidaはネットで募集したら応募してきて。キーボードのYudai Higuchiは僕のファンで、大学を辞めて大阪から上京してきたんですよね。そんな感じでみんな入った時期もバラバラだし、加入の経緯もバラバラなんです」

2018年のEP『Lunarian』収録曲“Phone Call”。『From Nightfall till Dawn』に再レコーディングされて収録

 

歌詞を記号化するのが好き

――Taitoさんは大阪出身なんですよね。東京にはいつ引っ越してきたのですか?

Taito「去年です。大阪にいた頃は、クラブで飲むついでに演奏するとか、いいDJがいるイヴェントにだけ出演するとか、ずっと場当たり的に活動をしていました。音へのこだわりはありつつも、活動そのものに対する主体性がまったくなくて。でも、とある出来事がきっかけで〈もっと真剣に音楽に向き合ったほうがおもしろいのかな〉と思うようになったんです。なので東京にも前から興味あったし、一度は出て勝負してみようと」

――とある出来事とは?

Taito「2017年の〈出れんの!?サマソニ〉に出られることになったんです。それで〈SONIC MANIA賞〉をいただき、〈SONIC MANIA〉の一発目にも出させてもらいました。1万人キャパの会場で演奏したことなんてなかったから、そのときはとにかく楽しすぎてはしゃいで終わってしまったんですけど、その後にチック・チック・チックが同じステージで演奏をしているのを観て感動したんですよね。中学生の頃にレンタルCDショップで借りまくっていたバンドと共演している事実が信じられなくて。その高揚感が忘れられなくなってしまったんです」

――確かにそれは、人生を変えるくらいの経験だったかもしれないですね。ちなみにTaitoさんを構成するアルバムを3枚挙げるとすると?

Taito「フランツ・フェルディナンドの『You Could Have It So Much Better』(2005年)、フォンテインズD.C.の『Dogrel』(2019年)、それとホラーズの『Primary Colours』(2009年)です。この3枚は、オールタイムベストですね」

――例えば映画や文学など、音楽以外に影響を受けたものはありますか?

Taito「ベタですがアメリカ文学は昔から好きですね。J・D・サリンジャーも、ビートニクの人たちの作品もひと通り読んだし、ウィリアム・サローヤンのような〈大衆派〉に位置付けられる人たちも大好きです。英語の散文詩もよく読むんですが、そこからインスパイアされて歌詞に落とし込むこともありますね。全体的にトラディショナルなものや、ロマンティックなものが好きなんだと思います。

それと、これはフランツからの影響なのですが、歌詞を記号化するのが好きですね。要するに、僕自身が陶酔するような歌詞では仕方ないと思っていて。恨み辛みを書き綴ったり、日記やエッセイのような私的な事柄を書いたりするのではなくて、あくまでも作品としての普遍性や、客観性があったほうが個人的には健全だと思っているんです」

――なるほど、おもしろいですね。

Taito「フランツの“Take Me Out”(2004年)とか、同じ歌詞の繰り返しだったり、わざと目的語を抜いて意味を曖昧にしたり、歌詞として鮮やかだなあと思うし、そこは自分で歌詞を書くときにも意識しています。リスナーそれぞれのコンテクストで解釈が変わるのもおもしろいのかなと」

フランツ・フェルディナンドの2004年作『Franz Ferdinand』収録曲“Take Me Out”
 

――今回のアルバムのなかで、ご自身で特に気に入っているラインなどあれば、理由も含めて教えてください。

Taito「2曲目に収録した“Slovenia”のAメロが自分では気に入っています。押韻は同一のメロディーを使って踏まれることが普通だと思うんですが、この曲では異なるメロディーにしたうえで踏んでいるんです。〈hand〉と〈sand〉、〈ice〉と〈dice〉といったライミングがあることによって、聴き手にメロディーがジグザグに行き来しているような感覚を与えられているのではないでしょうか」