〈1人8役〉で映画音楽を奏でる――コロナ禍だからこそできた驚くべき挑戦
1人のホルン奏者が最大8つの声部を演奏し、多重録音で楽曲を完成させる。しかも、演奏するのは「スター・ウォーズ」など名作映画の音楽――。
そんな前代未聞のアルバム『孤高のホルン~映画の世界』(キングレコード)をリリースしたのが、〈天才ホルニスト〉と称されるNHK交響楽団の首席ホルン奏者・福川伸陽さんだ。
福川さんが 〈1人8役〉の多重録音という驚くべきチャレンジを思い立ったのは、やはり新型コロナウイルスの影響が大きかったという。
「コロナでコンサートなどの予定がすべてなくなり、1か月ほど自宅で練習を続けていたんですけど、〈この機会に、少し一人で遊んでみようか〉とやってみたのが多重録音でした」
実は、福川さんは大の映画好き。小学生のころから「スター・ウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」といった映画に夢中になり、サウンドトラック盤にも聴き入っていたという。映画音楽を演奏したいがために中学校では吹奏楽部に入部し、ホルンと運命的に出会うこととなった。そんな福川さんが最初に自宅で多重録音する曲として「スター・ウォーズ」の音楽を選んだのはごく自然なことだった。
「それをネットにアップしたら、ツイッターですごい反響があって。キングレコードさんと相談して〈すべて多重録音で映画音楽のアルバムを作ろう!〉ということになったんです」
収録曲は“スター・ウォーズ 組曲”“フォレスト・ガンプ 組曲”“ジュラシックパーク”“タイタニック 組曲”“ベニスに死す アダージェット~交響曲第5番”という5曲。選曲のポイントは、福川さんの愛する名作の音楽だということと、〈ホルンの美点がクローズアップされる曲〉だということ。
また、“ベニスに死す アダージェット~交響曲第5番”はグスタフ・マーラー作曲であることから、「クラシックの音楽家としてどうしても取り入れたかったんです」と福川さんは語る。
「多重録音は、ホルン奏者として非常に学びや発見が多い体験でした。そして、ホルンという楽器の魅力と奥深さを詰め込んだアルバムができました」
コロナ禍という状況の中で見つけたアイデアを出発点にして作り上げた『孤高のホルン~映画の世界』。聴いていると映画のシーンがありありと目に浮かび、まるでオーケストラの演奏を聴いているような気分になってくる。福川さんが奏でるホルンの多彩な音色や表現力は見事としか言いようがない。ニューノーマルの時代に、新たな可能性を切りひらくアルバムだ。
LIVE INFORMATION
金管トップアーティストによるブラスでオペラ!
○2020年12月13日(日)14:00開演
会場:行徳文化ホールI&I ホール
ディスカバリー・シリーズ8〈ベートーヴェン生誕250周年交響曲シリーズ〉Hosokawa×Beethoven
○2020年12月17日(木)18:45開演
会場:JMSアステールプラザ大ホール
福川伸陽ホルンリサイタル
○12/18(金)18:30開演
会場:東広島芸術文化ホール くらら
芸劇ブランチコンサート ~清水和音の名曲ラウンジ~
第27回 「主役は豪華な管楽器」
○2020年12月23日(水)11:00開演
会場:東京芸術劇場 コンサートホール