インタビュー

船山基紀、筒美京平も厚い信頼を寄せた〈イントロの魔術師〉が自身の編曲仕事を振り返る

船山基紀『船山基紀サウンド・ストーリー ~時代のイントロダクション~』

ポップ・アートとしての歌謡曲を変革し続けた〈イントロの魔術師〉

 筒美京平氏逝去をきっかけに、今改めて熱い注目を集めている昭和歌謡。そんなタイミングでファンを唸らす素晴らしい集成ボックスが登場した。70年代から今日まで萩田光雄と共に歌謡界最強の編曲家として活躍してきた船山基紀の仕事をまとめたCD4枚組(全72曲)『船山基紀サウンド・ストーリー~時代のイントロダクション~』だ。元々編曲も自分でやっていた筒美は70年代半ば以降は編曲を随時他人に任せるようになったが、とりわけ篤い信頼の下で頻繁に起用されたのが萩田と船山だった。世界に冠たるポップ・アートとしての昭和歌謡は、大胆にして複雑精緻な編曲あってこそ完成されたわけで、もし筒美、萩田、船山の3人がいなかったら、その形は今とは全然違うものになっていたはず……そう言い切ってもいいほど、彼らの業績は偉大だ。

VARIOUS ARTISTS 『船山基紀サウンド・ストーリー ~時代のイントロダクション~』 ソニー(2020)

 「萩田君は、僕が思っていた通りのアレンジをしてくれる。対して、船山君は僕が恥ずかしいと思うようなアレンジも平気でやってくれる」と筒美は船山に言ったというが、この〈ほめ言葉〉こそが、船山編曲の特徴をよく言い表している。沢田研二“勝手にしやがれ”、渡辺真知子“迷い道”、クリスタルキング“大都会”、C-C-B“Romanticが止まらない”、少年隊“仮面舞踏会”等々、今回のボックスにも入っている大ヒット曲が特にわかりやすい例だが、船山の編曲は筒美以上にイントロのインパクトが強烈であり、全体の音作りが派手だ。それについては、自身も早くから意識的だったという。

 「京平先生や萩田さんのように正攻法で効果的にまとめる編曲は僕にはできないんです。正攻法じゃない方向ばかり狙ってアッと言わせるのが好きだった。京平先生の場合、たとえば“ブルー・ライト・ヨコハマ”だと、バート・バカラック的サウンドをまっとうに取り入れつつしっかり自分のものにされていた。萩田さんの場合もそう。すごくきれいな譜面です。でも僕の譜面はグチャグチャに入り組んでいて、プレイヤーたちが〈これナニ!?〉と驚いてしまう。京平先生や萩田さんは正攻法でやっても、みんなの期待値を超えてしまうけど、僕が正攻法でやったとしても、みんなが思っているようなことしかできない。僕には正攻法は求められてないと思ってきたし、もうできなくなっちゃってる(笑)」

 そんな自身の方向性、船山カラーを決定づけたのが“勝手にしやがれ”や“迷い道”(共に77年)だったが、それらのイントロは最初から羽田健太郎のピアノを想定して書かれたものだったという。

 「編曲を始めた74年頃、ハネケンから〈船山くんの編曲はとても面白い。つぶされないように頑張りな〉と激励され、とてもうれしかったんです。振り返れば僕は、プレイヤーや周りの制作スタッフが喜ぶ顔を見たくて編曲という仕事に情熱を注いでこられたんだと思う。ミュージシャンは正直なので、つまんない編曲をするとつまんない演奏しかしてくれない。そして、そういう曲はまずヒットしない。プレイヤーやスタッフの喜びや興奮、彼らの期待に応えたいという僕の思いは聴き手にも伝わるんです」

 また、船山がここまで長きにわたり第一線で活躍できた背景には、新しい機器や音楽モードに対する柔軟な姿勢もあった。彼は82年から2年弱ロサンジェルスに滞在して知見を広め、帰国時にフェアライトCMI(サンプリング/シーケンサー機能付きシンセサイザー)を購入した。

 「当時1500万円もした。使いこなせるまで四苦八苦したけど、あの時の決断があったからこそ、今まで仕事を続けられたんだと思う」と本人も語るように、この新兵器活用によって彼は、80年代以降の膨大な数の斬新なアイドル作品を生み出していったのだった。

 ああ、こんな小さな枠ではとても語り尽せない……。昭和歌謡の深奥をもっと知りたい方は、是非、今回の4枚組集成(ブックレットも充実!)を聴き、更に、昨年出た船山の半生記「ヒット曲の料理人 編曲家・船山基紀の時代」を読んでいただきたい。

 


PROFILE: 船山基紀 (ふなやま・もとき)
沢田研二の“勝手にしやがれ”で日本レコード大賞を受賞。中島みゆきの“悪女”、五輪真弓の“恋人よ”などニューミュージックを代表する作品を次々と手がけ、その後もコンピュータを使った新しいスタイルのサウンドで80年代アイドルの全盛期を築く。特に筒美京平作品の編曲数は、氏の作品中最も多く、レコード大賞を始め数々の賞を受賞。また、同じく80年代の田原俊彦、少年隊に始まり、TOKIO、SMAP、Kinki Kids、嵐、Sexy Zoneなど、歴代のジャニーズグループの編曲を数多く掛ける。2012年には石原裕次郎の名曲をカヴァーした舘ひろしのアルバム『HIROSHI TACHI sings YUJIRO』でレコード大賞企画賞を受賞。

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