2020年10月7日、日本の歌謡曲史におけるもっとも偉大な作曲家の一人、筒美京平さんがこの世を去りました。代表曲は、“サザエさん”(69年)、いしだあゆみ“ブルー・ライト・ヨコハマ”(68年)、尾崎紀世彦“また逢う日まで”(71年)、太田裕美“木綿のハンカチーフ”(75年)、ジュディ・オング“魅せられて”(79年)など、数知れず。〈筒美メロディ〉は、誰もがどこかで耳にしているはずです。

今回Mikikiは、シンガーソングライターの見汐麻衣さんに筒美さんの追悼原稿を依頼しました。プロフェッショナルとして、職人として、口ずさみたくなるヒット曲を大衆に向けて作り続けた〈職業作曲家〉の歩みを、見汐さんの視点から振り返ってもらいます。 *Mikiki編集部


 

歌うことで旋律(メロディ)を身体で感じられる曲

1980年代は私にとって筒美氏の曲をリアルタイムでよく聴いていた時期です。当時、テレビでは「ザ・ベストテン」「夜のヒットスタジオ」「ミュージックステーション」など、週に多くの歌番組が放映され、ブラウン管から流れてくる流行歌に胸を躍らせ、楽しみにしていました。それらをカセットデッキで録音し、何度も聴き直しては曲を覚えていました。小泉今日子“ヤマトナデシコ七変化”“なんてったってアイドル”“夜明けのMEW”、中山美穂“ツイてるねノッてるね”“WAKUWAKUさせて”“「派手!!!」”、少年隊“仮面舞踏会”“君だけに”、斉藤由貴“卒業”、C-C-B“Romanticが止まらない”、田村英里子“真剣(ほんき)”、西田ひかる“ときめいて”こうやって思いつくままに書き連ねている今も鼻歌で歌えてしまいます(余談ですが私が聴いていたこの時期の曲は、作詞家・松本隆氏とのタッグの曲が多かったのだと今回改めて調べなおす中で気付きました)。実際に歌ってみたくなる、口にすることでその旋律(メロディ)の瑞々しさ、心地よさを身体で感じることがとても気持ちの良い曲ばかりです。

小泉今日子の85年のシングル“なんてったってアイドル”

斉藤由貴の85年のシングル“卒業”

C-C-Bの85年のシングル“Romanticが止まらない”

私が生まれる以前の筒美氏の曲は、母親が営んでいたスナックに集う大人達がカラオケで歌っている中で知ることが多く、なんともいい曲だな……と思い聴いていると、クレジットに〈作曲:筒美京平〉という文字が出てくることでその名前を何度も目にしていました。暮らしの中で無意識に鼻歌になってしまう程、大衆の知る音楽。即ち流行歌、ヒット曲を生み出し続けている筒美京平という人間に興味が湧くようになったのは、自ら作曲を試みるようになってからのことです。