2025年は中森明菜の年かもしれない。映像作品「FANCLUB LIVE “ALDEA Bar at Tokyo 2024”」とトリビュート盤『中森明菜 Tribute Album “明響”』が同時リリースされ、フェス初出演を果たすなど話題が尽きないからだ。

中森明菜は2018年に活動休止。しかし近年ファンクラブ設立、ラジオ出演、YouTubeでセルフカバーを発表……と活動がどんどん本格化している。タワーレコードでは〈NO MUSIC, NO LIFE.〉ポスターに初登場、カタログキャンペーンも開催中だ。

そこでMikikiは中森明菜を特集。往年のファンにも最近知ったというリスナーにも楽しんでもらえる企画にするべく、トリビュートアルバム収録曲の原曲や重要作を順次レビューし、中森明菜イヤーを盛り上げる。初回で取り上げるのは“スローモーション”だ。 *Mikiki編集部

中森明菜 『プロローグ〈序幕〉』 リプリーズ/ワーナー・パイオニア(1982)

 

中森明菜の伝説はここから始まった。

今から43年前の1982年5月1日にリリースされたデビューシングルで、同年7月1日発表の1stアルバム『プロローグ〈序幕〉』に収録された“スローモーション”。これほどの名曲がオリコン週間 シングルランキングで初登場58位、という地味で目立たない結果だったことは今からすると驚きだ。しかしその後、最高30位まで上昇、39週にもわたって100位以内にランクインしつづけた。

明菜(敬意を払ってこう呼ばせてもらおう)はもともと美空ひばりのファンで歌手を目指していた母の影響を受け、日本テレビ系オーディション番組「スター誕生!」に挑戦、三度目で史上最高得点を獲ってデビューに漕ぎ着けた鳴り物入りの逸材。“スローモーション”はそのデビュー曲としてこのうえない、タイムレスな名曲である。小泉今日子、松本伊代、早見優、堀ちえみら〈花の82年組〉の一人に数えられたが、ずば抜けた特異な個性によってデビュー時から異彩を放っている。

制作陣は、前年の薬師丸ひろ子“セーラー服と機関銃”で一躍ヒットメーカーになった来生えつこ&たかおが作詞作曲、船山基紀が編曲。しかも米ロサンゼルスでレコーディングされており、盤石の体制だ。

マイナー調だがメジャー7thの挿入が効果的で、明菜のメランコリックな個性を際立たせつつ晴れやかさと煌びやかさが混じり合った和声とメロディが見事だ。イントロはピアノの演奏とシンセサイザーの輝くようなフレーズ、ストリングスが絡まり合うドラマティックなもの。対照的にAメロ(ベースラインがなんとなくクイーンの“Death On Two Legs”っぽい)は抑制的で、華麗なサビに花を持たせている。そこへ向かって高まっていくようなBメロも素晴らしい。歌詞についても、〈出逢いはスローモーション〉という決定的なフレーズは一度聴いたら忘れられないものだ。作編曲全体を含めて、歌謡曲の一つの到達点だと感じるほどの完成度の高さ。

もちろん主役は何よりその歌声で、明菜の声なしには成立しない曲だ。のちに明菜は低音を活かしたり、ビブラートやウィスパー発声を駆使するなど独自の繊細な歌唱法を確立していく。しかしそれ以前だから、この頃ならではのフレッシュさ、可憐さ、素直さが記録として貴重かつ美しい。特にAメロの〈ステップ〉〈人影〉〈脚先〉〈シェパード〉の部分の高音、コーラスを伴って伸びやかに歌い上げる開放的なサビの入りはこのうえなく美麗で、あの部分だけを繰り返し聴きたくなる。