コラム

ゼ・マノエウ(Zé Manoel)『裸の心から』ブラジルのアフロルーツに深く迫る、祈りのように静謐な歌

ブラジルのアフロルーツに迫る、柔らかなペルナンブーコ訛りと自然体ピアノの祈り歌

 澄明な歌世界に宿る、苦難の記憶と哀しみ……素朴な歌い口と秀逸なメロディー、抑制の効いたピアノとアレンジが、いたく胸に沁みる。4年前に発表された注目作『歌、そして静けさ』が、彼はどこからやって来て、どこへ行こうとしているかを示す自己証明の意味合いをもつアルバムだとしたら……この最新作は、より深く自身とブラジル人のアフロルーツに迫る、祈りを込めた大作だと断言しよう。

 リリースに先立ち公開された“アドゥペ・オバルアエ”のクリップ映像には、本作を貫くコンセプトが象徴的に描かれている。オバルアエ(オムル)は病を司り、治癒を促すアフロ混淆信仰=カンドンブレの神。また“古代の物語 (ストーリー)”には雷と火の神シャンゴーが現われ、“追憶の川で”は淡水と川の女神オシュンに捧げられる。虐げられてきた者たちへの静かながら強靭な哀悼のメッセージは、確かにブラジル版BLMと言えるかも知れない。ルーツに立ち返りながら、コロナ禍を乗り越えた先にある未来さえ、彼は示唆したかったのだろう。いやはや、なんとも素晴らしいアルバムに出合えた!

 ブラジル北東部ペルナンブーコ州、内陸の都市ペトロリーナ生まれの39歳(※11月22日時点で)。サンパウロを拠点に活動しているが、現在ペルナンブーコ州都レシーフェに逗留中とか。往々にして知性はルーツ音楽の熱量を冷ましがちだが、柔らかなペルナンブーコ訛りと自然体のピアノ、優れたアルバム構成が功を奏し、見事濃厚さをキープ。カシンやステファン・サンフアン、レチエレス・レイチにルエジ・ルナら国内外の才能が集結し、英語や仏語ナンバーの甘美さも魅力。ボレロ調“さすらいの道しるべに”を聴けば、ついレシーフェ旧市街の多様性あふれる週末の夜を思い浮かべてしまうではないか。傷やトラウマを癒す理想の音楽……祈りのひとつには、がん治療のため入院中のプロデューサー、ルイザォン・ペレイラへの思いも込められていたそうだ。

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