声優だからこその表現力で音楽のおもしろさを伝える甘く澄んだ歌声――
多彩な作家陣と共に24歳の等身大を映した新作が完成!

 伊藤美来の歌声には、聴き手を惹きつけてやまない特有のチャームが備わっている。澄んだなかにも甘さを含んだ声質、声優ならではの心地良い発音と滑舌、楽曲のテイストに合わせて色を変える表現力の高さによって、いわゆる歌専業のシンガーとはまた違ったアプローチで音楽のおもしろさを伝えてくれるのだ。だからこそ、彼女のアーティスト活動は声優としてのキャリアともある種シンクロしているし、それが個性にもなっている。

 伊藤は2013年、当時高校生ながらゲーム「アイドルマスター ミリオンライブ!」の七尾百合子役に抜擢され、声優としての活動を本格的にスタート。キャストによるライヴも盛んな同コンテンツ及び、同じ事務所の豊田萌絵と結成した声優ユニット、Pyxisの活動などを通じて、その可憐な歌声の魅力を開花させていく。そして2016年10月12日、ちょうど20歳の誕生日にシングル“泡とベルベーヌ”でソロ・デビュー。同曲を含む初アルバム『水彩 ~aquaveil~』(2017年)では透明感溢れるピュアな一面にフォーカスし、そこからfhánaの佐藤純一が手掛けたシングル“閃きハートビート”などを経て届けられたセカンド・アルバム『PopSkip』(2019年)は、グルーヴ感の強まったサウンドとより体温を感じさせる歌唱によって、彼女流のカラフルな〈ポップス〉を追求した充実作になった。

伊藤美来 『Rhythmic Flavor』 コロムビア(2020)

 そんな彼女がニュー・アルバム『Rhythmic Flavor』で見せたのは、24歳のいまを謳歌する自身の等身大の姿。愛らしくもあり、凛としてもいる、多面的な魅力を持った飾らない表情が、ここには封じ込められている。それがもっとも如実に表れているのが、伊藤がみずから作詞した2曲。そのうち佐藤純一が楽曲提供した“Good Song”は、クラップを交えた軽快なリズムと華やかなブラスが胸を躍らす一曲で、誰のものでもない〈私だけのSong〉を信じて伸び伸びと歌う様からは、これまでにない開放感が感じられる。

 もう一方の“いつかきっと”は、ライト・メロウの文脈でも人気のシンガー・ソングライター、高田みち子が前作収録の“PEARL”に続き作曲した、エレピの音色が心地良いアーバンなバラード(編曲は水口浩次)。優しく親密な歌声で彼女が伝えるのは、〈カレンダーに付けてた印 そっと書き直して〉と、いつか会える日が来ることを待ち侘びる気持ち。コロナ禍で思うように会えないファンに宛てた手紙のようで、耳にすればきっと心が温まるはずだ。

 他にも、ゆいにしお提供のガーリーな“hello new pink”、恋心を甘酸っぱく表現した“one's heart”など、『PopSkip』の延長線上にあるグルーヴィーな楽曲が並ぶなか、音楽的にちょっと大胆な挑戦をしたのが、アルバムのリード曲でもある“BEAM YOU”。多保孝一とUTAの作/編曲による、リズムマシーン主体のキッチュなトラックに乗せて、特別な〈あなた〉に向けて積極的にアプローチする女子の心情が、愛嬌たっぷりに描かれている。作詞したのは、伊藤とは同世代で彼女のファンでもあったという竹内アンナ。英語が得意な竹内らしい言葉の乗せ方と語感、女子力高めのワードチョイス、それをキュートかつどこか挑発的な雰囲気で表現する伊藤の振る舞い(MVではいつもと違ってほぼ笑顔を見せないのも印象的)も含めて、スタイリッシュで中毒性の高い一曲になっている。

 さらに特筆すべきは、Charaが楽曲提供したスウィートなスロウ・バラード“vivace”。ときにファルセットを織り交ぜつつ、耳元で気怠げに囁くような歌い口は、ASMR的な観点で聴いても素晴らしいし、Kai Takahashi(LUCKY TAPES)のアレンジによるチルホップなトラックもその効果を高めている。英語で台詞をつぶやくパートもあり、彼女の声質と職能を踏まえた最適解の一曲と言えるだろう。

 さらには、タイアップ作品のTVアニメ「プランダラ」に寄り添って、運命を切り拓くような力強さに満ちたシングル曲“Plunderer”“孤高の光 Lonely dark”、挑戦心をメラメラと燃やすキュートなロックンロール“Born Fighter”などを含め、彼女の体現するさまざまなリズムとフレイヴァーを楽しめる本作。聴き終える頃にはきっと、その多彩な表情から耳を離せなくなっているはずだ。

伊藤美来の関連作品。

 

『Rhythmic Flavor』に参加したアーティストの関連作品。