私の〈サウンド・システム〉をみんなとシェアしたい!

 モレーノ・ヴェローゾら現代ブラジル音楽を代表する面々によって構成されるビッグ・バンド、オルケストラ・インペリアル。その中心人物のひとりであるパーカッショニスト/ヴォーカリスト、ステファン・サンフアンが実はフランス人であることをご存知ない方もいるかもしれない。カシンらオルケストラ・インペリアルの仲間やハイ・ラマズのショーン・オヘイガンも参加した彼の初ソロ作『Système De Son』。本作で彼はフランス語で歌い、曲によってはセルジュ・ゲンズブールへもオマージュを捧げている。

 「父はスペイン人の両親のもとアフリカで育ち、私の母はドイツ人の両親のもとアジアで育ち、私自身はヨーロッパで育ちました。そのため、私は世界の広い視野を身に付けたんです」と話すステファン。その出自同様、影響を受けた音楽も多彩だ。父が教えてくれたアメリカのソウルやロック、母が好きだったエディット・ピアフやジャック・ブレル、音楽活動を始めるなかで出会ったアフリカやアジアなど各国の音楽――それらすべての要素が交差する場所、それが2002年から活動拠点としたブラジルだった。

STEPHANE SAN JUAN 『サウンド・システム』 Stephane San Juan/コアポート(2014)

 「ブラジルにいると自分の多様なルーツを特別なものに感じないし、ここが自分の居場所だと感じます。特に惹き付けられるのは、ブラジルの人々の自然な音楽性。いろいろな音楽スタイルが共存してますし、みんなとてもオープンなんですよ」

 サンバ史に名を残す名ドラマー、ウィルソン・ ダス・ネヴィスを師匠とし、現在もインペリオ・セハーノでブラジルのリズム・アンサンブルを学び続けているというステファン。ただし、彼はブラジルで活動を続けながら、フランス人としてのアイデンティティーについても意識を向けている。

 「『Système De Son』というタイトルはフランス語で〈サウンド・システム〉という意味で、多くの音楽スタイルによって形作られた私の〈サウンド・システム〉をみんなとシェアしたかったんですね。また、フランスでこの言葉はほとんどの場合英語で表現され、その方がトレンディーとされるんですが、イギリスやアメリカと比較したときの劣等感のようなものを無意識のうちに助長しているようにも思えるんです。私はフランス人に“自分たちの文化を恥ずかしく思うことはない”というメッセージを送りたかったんです」

 このメッセージを自分たちの環境に置き換えて捉え直してみると、この作品はグッと身近なものとなるはずだ。世界はこんなにも多面的なのだ――『Système De Son』はそのことを再認識させてくれる素晴らしいアルバムだ。