今最も期待される大器の、満を持したデビュー・アルバム
コンサートホールには必ずと言っていいほど鎮座しながら、出番の少ないパイプオルガン。オルガンが脚光を浴びるには、スター演奏家も必要だ。2016年のバッハコンクールで日本人初の優勝を果たした冨田一樹は、〈スター〉を感じさせる大器である。
「オルガンに惹かれた理由は、多彩な音色と、複数の旋律が織りなすハーモニーです。鍵盤があっても構造は管楽器ですから、音が継続してテンションが上がっていく。そこが他の楽器にはない魅力ですね。
オルガンは強弱がつけられないので、音の長さで表情をつけています。同じ8分音符でも、それぞれの意味を考えて微妙に長さを変えることで音楽が生き生きしてくる。音の切り方や繋げ方も重要です。また、音の線がクリアに聞こえるように工夫しています。音は基本的に濁らないようにしつつ、時に濁らせてコントラストをつけます。オルガンの魅力であるハーモニーとポリフォニーをうまく表現するのが目的です」
大阪音楽大学でオルガンを専攻した後、バッハも〈留学〉した北ドイツのリューベックに留学。音楽大学に学ぶかたわら、現地に残る楽器から多くを吸収した。その経験は、コンクールの優勝にも役立っている。
「オルガニストは〈楽器から学ぶ〉とよく言われます。例えば、古いオルガンでポリフォニックな曲を濁らずに弾くのはとても難しい。歴史的な楽器から得られるものは大きいです。
バッハコンクールでは、4回の本番で全部違う楽器を弾きました。そのうち2回は歴史的な楽器で、今の楽器と全然違うんです。足鍵盤なんてイレギュラーそのものですね。でも最後に、聖トーマス教会のバッハオルガンが弾けたのはとても良かったです」
冨田にとってバッハは、クラシック音楽と出会った時から重要な作曲家だった。今回のデビュー・アルバムは、それ以来の演奏と研究の成果だ。いわゆる有名曲が中心だが、それにはもちろん理由がある。
「バッハと出会ったのは中学1年の時です。有名な“トッカータとフーガ ニ短調”。キャッチーでハーモニーが面白い。それでバッハの研究を始めました。
オルガン音楽は日本ではまだ馴染みが薄いので、親しみを持っていただくことを第一に考えて選曲しました。オルガンの多彩な音色や、バッハの大きな魅力であるポリフォニー、つまり複数の旋律のバランスの良さが伝わる作品であることも考えました。これもバッハの魅力である、ハーモニーのドラマティックな要素も際立たせるように心がけています。
演奏の目的は、あくまで〈バッハの音楽の魅力を代弁〉すること。それが伝われば、こんなに嬉しいことはありません」
LIVE INFORMATION
冨田一樹バッハ名曲決定版2021
○2021年2月27日(土)19:00開演
会場: ザ・シンフォニーホール
住友生命いずみホール 会館30周年記念コンサート
○2021年3月25日(木)19:00開演
会場:住友生命いずみホール
大阪ゲヴァントハウス合唱団定期演奏会
○2021年5月4日(火)14:00開演
会場:住友生命いずみホール