ドイツのレーベルWinter & Winter発、グローバルでクリエイティヴな3作品

AARON ZAPICO,FORMA ANTIQVA 『Baset: Symphonies - Madrid, 1753』 Winter & Winter(2020)

 チェンバロ/オルガン&バロック・ギター&テオルボの3兄弟からなるスペインの古楽器アンサンブル、フォルマ・アンティクァによる、18世紀バロック期マドリードの劇場で活躍した幻の作曲家Vicente Baset(1719-1764)作品の世界初録音。当時音楽的中心だったイタリアのスカルラッティ、またはテレマンやヴィヴァルディの作風を彷彿するがリズムの鮮烈さはスペインのもの。代表のアーロン・ザピコ曰く、曲中に〈Allegro con Valentia〉つまり〈勇気を伴って〉との珍しい指示が作品全体の解釈に影響を与えたとのこと。譜面に真っ当に向き合いつつも陰影に満ちた演劇的な解釈で、清々しい充実感を与える。

ANDRE RAPHEL,CATTO FREEDOM ORCHESTRA,URI CAINE,BARBARA WALKER 『Uri Caine: The Passion Of Octavius Catto』 Winter & Winter(2020)

 現在BLMの影響が音楽界にも浸透する米国。元々クラシックとジャズの垣根を自由に超えてきたフィラデルフィア出身のピアニスト/作曲家のユリ・ケインは自身の音楽的バックグラウンドを存分に示す。“The Passion Of Ocvatius Catto”は、才気に満ちた教師、野球選手かつ奴隷制の廃止を唱えた市民運動家で、殺害された同郷のオクタヴィウス・カット(1839-1971)に想いを馳せた〈受難曲〉。ゴスペルやジャズ、米国的クラシック要素が組み込まれ、ピアノ、ソロ歌唱、合唱、オーケストラが絡み合う。エレキベースのグルーヴに乗ってバーバラ・ウォーカーによるパワフルな声がエレキベースのグルーヴに乗り始めると、演奏会場に訪れた述べ1万5千人以上の観客に与えた聖俗を飲み込むようなカタルシスが訪れる。

ENSEMBLE RECHERCHE 『Christian Mason: Zwischen Den Sternen』 Winter & Winter(2020)

 84年生まれの英国人作曲家クリスチャン・メーソンは、ブーレーズ存命時のルツェルン音楽アカデミーのレジデント・コンポーザーをつとめ、その後エルンスト・フォン・シーメンス音楽賞を受賞。アンサンブル・レシェルシェとの深い共同作業から生まれた今作はリルケの同名の詩「Zwischen den Sternen」(〈星の間〉の意)に由来する。何万光年もかけ離れた星々の示す遠近感が、ピアノや弦の変則的な調律、スネア・ドラムやスチール・ドラム、電子音、半即興のチェロの構築で表現された、斬新な音世界。