〈ポスト・コロナ〉世代のトップランナー 〈オーパス・ワン〉シリーズからデビュー盤!
ポスト・コロナ世代。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は音楽界の様相も一変させた。92年生まれのバリトン、黒田祐貴が日本コロムビアの〈オーパス・ワン〉シリーズからデビュー盤『Meine Lieder(私の歌)』をリリースする2021年初頭、大きな制約を余儀なくされた音楽家たちにとって、YouTubeをはじめとする配信音源の活用は〈当たり前〉の状況になった。
黒田祐貴 『Meine Lieder』 Opus One/日本コロムビア(2021)
「2019年に参加したドイツ・リート(ドイツ語歌曲)勉強会の成果披露を昨年3月、YouTubeにアップしたのが最初でした。今まで訪れたことのない地域からも自分の声への反響があり、心境が変化しました」。昨春には東京藝術大学の同期で歌との共演を得意とするピアニストでアレンジャーの追川礼章(あやとし)が「真夜中に突然、電話をかけてきて」、「“鬼のパンツ”(“フニクリ・フニクラ”の替え歌)で“アベノマスク”をやるから、歌ってくれないか」と頼まれた。「慎重にバランスを整えてアップした」ところ、再生回数30万回を超える大ヒットとなり、2人の知名度を一気に上げた。
父はバリトン歌手の黒田博、母も同じ京都市立芸術大学でピアノを専攻した。3歳上の兄の影響で中学から吹奏楽に向かい、トロンボーンを吹いていた。藝大はトロンボーンで受けたが失敗、浪人中に「色々やってみたら」と言われ、「ウチに歌を歌っている人が偶然いたから」くらいの理由で父のレッスンを「2度くらい」受けた。「もしかして、いけますか?」と尋ねると「アリかもしれない」。父子の共通意見は「親子で師弟にならない方がいい」。藪西正道の指導を受け、藝大に合格した。「あと1年で退官される名教師だから」という理由で直野資のクラスに入ると「譜面の指示と関係なく、すべてフォルテでレガートに歌い、大きな音楽をつくれ」と言われた。入学後たまたま、シューベルトの連作歌曲集“冬の旅”を聴いてリートに開眼、2年目に勝部太の門下へ入った。勝部は、「オペラは声楽家が生きていく基本」と釘を刺すのも忘れなかった。
デビュー盤はブラームス、R・シュトラウス、マーラー、コルンゴルトと、少年時代から傾倒したドイツ語圏の後期ロマン派の作曲家を軸に組み、“Meine Lieder=私の歌”と名付けた。最後はやはり藝大の盟友で、アルバム全体のピアノも担当した山中惇史がまどみちおの詩に基づき、メゾソプラノの寺谷千枝子のために作曲した美しい日本語曲“おんがく”で締める。「録音時点27歳の僕の好きなものを集めました」。黒田の父をも凌ぎそうな美声、山中の瑞々しいピアノは確かに、新しい世代の感覚を象徴している。
LIVE INFORMATION
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021
喜歌劇「メリー・ウィドウ」
〇7月16日(金)、17日(土)、18日(日)、20日(火)、21日(水)、22日(木)、24日(土)、25(日)
【会場】兵庫県立芸術文化センター
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵役
黒田祐貴の出演は、16日(金)、18日(日)、21日(水)、24日(土)
www.gcenter-hyogo.jp/merrywidow/