南イタリアを代表する歌手、エンツァ・パリアーラによる貴重なグリコ語での歌唱も!

 私はイタリアを旅行するのが大好きなのだが、残念ながらナポリより南には(シチリア島を除いて)行ったことがない。イタリアは国の形が長靴に喩えられる。その踵(あるいはヒールと言えば分かりやすいか)の部分である南部のサレント半島はまだ未踏の地である。サレント半島はアドリア海をはさんでアルバニアやギリシャの対岸にあたる訳で、当然ながら古代から文化的な交流があったはず。現在でもギリシャ系少数民族であるグリコ(Griko)人が暮らし、グリコ語を話しているという。サレント地方にはそのグリコ人の伝統的な音楽を演奏するグループもあると聞いていたが、実際にその音楽を耳にすることは今まで無かった。

ITALIAN RONDINELLA QUARTET 『Rindineddha~小さなツバメ~』 RESPECT RECORD(2021)

 そこにこのアルバム『Rindineddha~小さなツバメ~』が登場したのは、誠に嬉しい限りだ。南イタリアを代表する女性歌手としてエイナウディも賞賛するエンツァ・パリアーラをはじめ、〈イタリアの四季〉シリーズを一緒に展開して来たマンドリン奏者マウロ・スクイッランテ(ナポリ・マンドリン・オーケストラのリーダー)、90年の東京国際ギターコンクール優勝で知られるイタリアの名手サンテ・トゥルジ、そしてパーカッション奏者のルイジ・モルレオが加わった4人によるイタリアン・ロンディネッラ・カルテットによるアルバムは、グリコ語の歌詞による“美しき幼子イエスよ”から始まる。サレント地方独特のリズムである“Pizzica”を使ったナンバーも2曲目と14曲目に登場する。

 またスクイッランテとトゥルジによる美しいセレナーデがナポリ音楽の魅力を伝えてくれ、ナポリ出身のバロック期の作曲家D・スカルラッティのソナタまでが登場し、南イタリアの豊かな音楽遺産を教えてくれる。パーカッションのモルレオ作曲の作品も多く、彼の作り出す多彩なリズムがアルバムを魅力的なものにしている。パリアーラの歌声に秘められたパワーは、この不安な時代に勇気を与えてくれるはずだ。脳内南部イタリア半島旅行に出かけてみよう。