〈We The Best Music!〉〈Another one〉〈DJ Khaled!〉というプロデューサー・タグを聴いたことのないヒップホップ・リスナーは、まずいないだろう。2010年代、もっとも成功を収めたプロデューサーの一人であるDJキャレド。彼の楽曲には、必ず〈あの声〉が刻印されている。

そんなDJキャレドが、ニュー・アルバム『KHALED KHALED』を発表した。世界最大のスター・プロデューサーの新作は、ジャスティン・ビーバーからドレイク、ジェイ・Zまで、超豪華ゲストが多数参加しており、いつもながらにポップ・シーンを総ざらいしたゴージャスさだ。

彼お得意の〈オールスター・アルバム〉というスタイル。それは、何もキャレドが始めたことではない。そこでこの記事では、ブログ〈にんじゃりGang Bang〉で知られる書き手のアボかどが、ヒップホップ史におけるプロデューサー・アルバムやオールスター・アルバムの系譜を辿る。そこから見えた、キャレドの無二の個性とは? *Mikiki編集部

DJ KHALED 『KHALED KHALED』 We The Best/Roc Nation/Epic(2021)

 

ぼくのかんがえたさいきょうのあるばむ

DJキャレドのアルバム『KHALED KHALED』が話題だ。ジャスティン・ビーバーやリル・ベイビーといった豪華な面々を30人以上客演に招き、プロデューサーにもテイ・キースや9thワンダーらを迎えた同作からは、DJキャレドの幅広い人脈とメジャー作品ならではのリッチさが感じられる。DJキャレドのソロ・アルバムは今作で12枚目だが、これまでの作品も全て同様の豪華な作品だ。この〈ぼくのかんがえたさいきょうのあるばむ〉を本当に作ってしまったような作りは、もはやヒップホップの名物の一つと言えるだろう。

『KHALED KHALED』収録曲“‘POPSTAR (Feat. Drake)”

しかし、DJキャレドほど振り切った例は多くないものの、豪華な面々を揃えたアルバムはDJキャレドの専売特許ではない。例えば、スタティック・セレクターが昨年リリースしたアルバム『The Balancing Act』にもブラック・ソートやジョーイ・バッドアス、2チェインズなど30組以上が参加していた。ほかにもインターネット・マネーや最近ならクライシスなどもこういった準コンピレーション的なアルバムを制作している。古くはクインシー・ジョーンズのようなプロデューサーもいた。DJやプロデューサーによるこのような作品は、ヒップホップやR&Bの世界では決して珍しいものではない。

だが、それでもDJキャレドはやはり特別な存在だ。本稿ではヒップホップ史におけるDJやプロデューサーのリーダー作の歴史を振り返り、なかなか見えづらいDJキャレド本人の個性を過去のアーティストと比較して探っていく。