実は多才なDJキャレドがブレイクするまで
〈ちょっと喋るだけの人〉というイメージが強いDJキャレドだが、シーンに登場した初期の頃はそうではなかった。ルイジアナのラッパーのフィーンドが2000年にリリースしたアルバム『Can I Burn?』ではプロデューサーとしてソウルフルなビートを制作し、ディディが2001年にリリースしたアルバム『The Saga Continues...』ではキレのあるスクラッチを披露していた。イメージに反して実は多才なアーティストなのだ。
しかし、DJキャレドが2006年にリリースした初ソロ作『Listennn... The Album』ではセルフ・プロデュース曲は3曲に留め、スクラッチもほとんど入れずDJクルーなどの作品と同じような作りを採用。当時勢いに乗っていた、フロリダ勢を中心としたラッパーやプロデューサーたちを招集した。
『Listennn... The Album』がリリースされた2006年頃は、T.I.の“Top Back (Remix)”、ゲームの“It’s Okay (One Blood) (Remix)”のように、既存の曲に豪華ゲストを追加フィーチャーしたオールスター・リミックスが流行していた時期だった。DJキャレドとテラー・スクワッドで共に活動していたファット・ジョーも、ヒット曲“Make It Rain”のDJキャレドが参加したオールスター・リミックスを2007年にリリース。同リミックスとDJキャレドのセカンド・アルバム『We The Best』からの先行シングル“We Takin’ Over”が同時期にリリースされて話題を集めたことから、DJキャレドはファースト・アルバムのリリース時を上回る知名度を獲得。アルバム『We The Best』もヒットし、一躍シーンの人気者となった。
DJキャレドの成功はDJ主導のアルバムにとって追い風となり、ミックステープのホストDJとしての地位を確立していたDJドラマが2007年にリリースしたアルバム『Gangsta Grillz: The Album』もヒット。しかし、ほかのDJはDJキャレドほどの人気を得ることはなかった。また、リッチなアルバム作りの先駆者であるディディのソロ作も2006年の『Press Play』から一時ストップし、メインストリームにおけるこの分野の代表格はDJキャレドに交代していった。
DJキャレドがアナザー・ワンな理由
過去のこういった準コンピレーション的な作品の歴史を踏まえると、一見ゴテゴテに見えるDJキャレドの魅力が、実は余計なものを入れない引き算の良さにあることがわかる。ディディなど社長ラッパーは自らのヴァースで曲の評価を落とすこともあったが、DJキャレドの曲にはそれがない。また、煽りもDJクルーほど入れずイントロなど最小限に留める。実は上手いスクラッチも曲に必要な時だけ入れ、プロデューサーとしても関わらない選択ができる。この自分のことすら客観視できる優れたバランス感覚が、豪華ゲストに隠れたDJキャレドの個性であり武器だ。
このバランス感覚は、最新作『KHALED KHALED』でも発揮されている。どうしても超豪華ゲストに目と耳を奪われてしまうが、プロデューサー陣はテイ・キース以外やや地味な顔ぶれだ。メトロ・ブーミンやファレルといったスーパー・プロデューサーを多数起用することもできたはずだが、DJキャレドは今回それをしなかった。代わりに並ぶのは古くから交流のあるクール&ドレーやストリートランナー、新進プロデューサーのスキップオンダビート(SkipOnDaBeat)やDJ 360、そして自身の名前(“GREECE”を除く全曲に関与!)だ。テイ・キースなどの名前もあるが、基本的には活動拠点のフロリダ人脈が中心となっている。ジャスティン・ビーバーのような超豪華ゲストを地元の仲間と作ったビートに乗せる(スキップオンダビートとアル・クレスの名前をよく見るというリスナーは余程のフロリダ・マニアだ)。そんなことができるのはDJキャレドくらいだろう。しかしスーパースターたちの華にビートが負けている瞬間はない。ここに余計な人間を入れない、DJキャレドならではの強みが感じられる。
ほぼ全曲をセルフ・プロデュースした今作はマーリー・マールの系譜にあり、大量の豪華ゲストを招集したという点でディディの系譜にもある。当然、DJのリーダー作という点ではDJクルーなどの系譜にもある。今作ではマーリー・マールが生み出したサンプリングという手法を活用し、ディディをフィーチャーし、DJクルーがかつて番組を持っていたラジオ局〈HOT 97〉で勝敗の投票を行ったビーフで知られる二人を共演させた。DJキャレドが自覚的にやっているかは不明だが、これらの文脈を踏まえると感慨深い瞬間が多く訪れる。DJキャレド作品は一見人を集めただけに見えても、ただのコンピレーションや世に溢れるプレイリストとは一味違う。まさにアナザー・ワンなものなのだ。
RELEASE INFORMATION

DJ KHALED 『KHALED KHALED』 We The Best/Roc Nation/Epic(2021)
リリース日:2021年4月30日
配信リンク:https://DJKhaled.lnk.to/KHALEDx2
TRACKLIST
1. Thankful Thankful feat. Lil Wayne and Jeremih
2. Every Chance I Get feat. Lil Baby & Lil Durk
3. Big Paper feat. Cardi B
4. We Going Crazy feat. H.E.R. & Migos
5. I Did It feat. Post Malone, Megan Thee Stallion, Lil Baby & DaBaby
6. Let It Go feat. Justin Bieber & 21 Savage
7. Body In Motion feat. Bryson Tiller, Lil Baby & Roddy Ricch
8. Popstar feat. Drake
9. This Is My Year feat. A Boogie Wit Da Hoodie, Big Sean, Rick Ross & Puff Daddy
10. Sorry Not Sorry feat. Nas, Jay-Z & James Fauntleroy & Harmonies By The Hive
11. Just Be feat. Justin Timberlake
12. I Can Have It All feat. Bryson Tiller, H.E.R. & Meek Mill
13. Greece feat. Drake
14. Where I Come From feat. Buju Banton, Capleton, Bounty Killer & Barrington Levy
PROFILE: DJ KHALED
75年11月26日生まれ、米ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のDJ/プロデューサー/実業家。92年、17歳の時に地元のレコード・ショップ〈オデッセイ〉で働きながらDJとしての活動をスタート。99年『Listennn... The Album』でデビュー。全米R&Bアルバム・チャートでいきなり4位を獲得し、2003年からはマイアミNo.1の人気ラジオ局WEDRのホストDJとしても活躍。2016年にリリースした『Major Key』は自身初の全米チャート1位を獲得。2017年4月にリリースしたシングル“I’m On One”はジャスティン・ビーバー、クエヴォ、チャンス・ザ・ラッパー、リル・ウェインを一同に集結させ、全米/全英チャートを含む全世界53か国で1位を獲得。2017年6月には10作目となるアルバム『Grateful』をリリース。ジャスティン・ビーバー、リアーナ、ビヨンセ、ジェイ・Z、アリシア・キーズ、カルヴィン・ハリス、ニッキー・ミナージュ、ナズなど豪華アーティスト40組以上を集結させ、全世界26か国で1位を獲得。2018年3月にビヨンセ、ジェイ・Z、フューチャーを迎えたシングル“Top Off”をリリース、4月にはディズニー映画「リンクル・イン・タイム」の挿入歌でデミ・ロヴァートのコラボ曲“I Believe”をリリースした。2018年7月に再びジャスティン・ビーバー、クエヴォ、チャンス・ザ・ラッパーを迎えた“No Brainer”をリリース、ミュージック・ビデオは2億回以上の再生を記録した。2019年5月、アルバム『Father Of Asahd』をリリース。ヒップホップ・ラップチャート1位を獲得。2021年4月、通算12作目となるアルバム『KHALED KHALED』をリリース。