現行のモードを多方面から吸収したクールなサウンドを卓越したパフォーマンスで発信し、注目を得てきた平均年齢21歳の4人組、um-hum。もともとは、すべての作曲とプロデュースを手掛けるろん れのんが「それまでやってこなかった歌モノのバンドをやろうというテーマしかないまま、メンバーに半ば無理やり声をかけて」緩やかに始まった学生バンドだったが、ライヴを重ねるなかで現在に至るソリッドな音楽性を確立。その軸となったのは、演奏を担う3人が共通して好んでいたというロバート・グラスパーや、彼を起点とするクロスオーヴァーなジャズのシーンだった。
「楽器の3人がジャズ研出身ということもあって楽曲の好みが似てましたし、進みたいスタイルもいっしょだったのかなと。だから、どちらかと言うとバンドの早い段階から音楽性は固まっていたのかなと思います」(たけひろ)。
楽器隊のアンサンブルとはまた別種の個性をum-humに持ち込んでいるのがヴォーカルの小田乃愛だ。um-hum以前にバンド活動の経験がなかったという彼女のしなやかで力強い歌唱は、聴き手を掴んで離さないポップな吸引力を備えている。
「自分はバンドを始める前にダンスとかアートの世界を見てきたんですけど、um-humはそれとは全然違う感じでめちゃめちゃカルチャー・ショックを受けたんです。みんな謎が多いし……モアイ像みたいな感じで(笑)。他の3人が専門的な音楽用語でやり取りしているのを聞いていても全然わからなかったんですけど、それでも直感で〈こういうことなんかな?〉って理解している感じです。そのほうが3人とは違った観点でアプローチすることもできるなって」(小田)。
そんなum-humが完成させた初のアルバム作品が『[2O2O]』だ。これまでもジャズを媒介にさまざまな要素をミックスしてきた彼らだが、新作ではその雑食的な嗜好がより顕著に。ロック的な質感をフックにした“Ungra”をはじめ、トラップを翻案したような“芥”、ヨレたビートにメロウネスを浮かべる“Yawning”、アトモスフェリックなトラックにモノローグを乗せた“続予報”など、1曲ごとにまったく異なるアプローチの楽曲を揃えている。
「そこまで長く活動もしていないし、バンドとしてそんなに固まっていないんだから、どんどん枠を広げてやろうという考え方で、あえていろんなジャンルを盛り込んだ自己中な曲を集めました。20%ぐらいはメンバーに無茶ぶりして形になったところもあります。どんなことを頼んでも応えてくれる力量を持っているので」(ろん)。
アルバムとしてのヴァラエティーもさることながら、1曲のなかに複数のエッセンスを投げ込むセンスもおもしろい。フライング・ロータスばりのビートから歌謡曲めいたサビへ転換する“20??”にしても、静謐なサウンドスケープからフォーキーな歌へと切り替わる“secret track”にしても、アブストラクトな音とポップなメロディーというある意味で相反した要素を不敵に同居させているのだ。
「先鋭的なものが好きな人にはキャッチーなメロディーを聴いてほしいし、ポップスが好きな人にいかついサウンドの部分も聴いてほしい。それぞれの対岸の魅力を伝えたいと思っています」(ろん)。
抜きん出た演奏力と衝動的なアイデアとが、今しか成立し得ないバランスで詰め込まれているところに本作の大きな魅力を感じる。かつ、um-humというバンドのまだ見ぬポテンシャルを存分に感じさせる点も頼もしい作品だ。
「メロディーに対してどんなベースとドラムが合うのかとか、アルバム制作を通していろいろと研究できたことが大きかったですね。ここで得たことをもとにして、次のアルバムでは完成度をもっと高めていきたいなと思っています」(Nishiken!!)。
um-hum
小田乃愛(ヴォーカル)、ろん れのん(ギター/キーボード)、たけひろ(ベース)、Nishiken!!(ドラムス/サンプラー)から成る、大阪を拠点に活動中の4人組バンド。2019年にイヴェント出演に向けて前身バンドを結成、のちに改名して現在に至る。同年11月には島村楽器主催の〈HOTLINE2019〉にて全国大会へ出場し、ベスト・ギタリスト賞を受賞。2020年1月に初のシングル“Gum”をリリース。2月には関西最大の音楽オーディション〈eo Music Try19/20〉でグランプリを受賞する。その後、10月、11月に配信シングル“Ungra”“JoJo”を発表。このたび、2021年2月に先行でデジタル・リリースされたファースト・ミニ・アルバム『[2O2O]』(oboroge)のCD版が5月26日に到着予定。