多少、ファンとしてひいき目に見ているかもしれないけれど、それを抜きにしても、藤井 風は、いまこの国でもっとも勢いのある音楽家だと思う。

最近の力強い活動、そして彼を取り巻く状況については、3月にリリースされた“旅路”のレビューで詳しく書いた。その後4月には、日本武道館でのワンマン・ライブを収めた「Fujii Kaze “NAN-NAN SHOW 2020” HELP EVER HURT NEVER」を発表。音楽映像ソフトとしてはかなりの売上を記録しているようで、5月3日付のオリコン〈ミュージックDVD・BDランキング〉では1位を獲得した。なんと、男性ソロ・アーティストの最初の音楽映像作品として1位を獲得したのは史上初だという。これだけを取ってみても、藤井 風がどれだけ勢いづいているかがわかる。

昨日5月20日には、デビュー・アルバム『HELP EVER HURT NEVER』のリリース1周年を記念して、初回盤に収録されたカヴァー集『HELP EVER HURT COVER』が単独で発売配信もスタートした。エド・シーランの“Shape Of You”など洋楽の名曲を、歌とピアノを中心にした演奏でカヴァーした同作は、カヴァーが活動の原点にある藤井 風の真骨頂と言ってもいいもの。彼のルーツや音楽観を知り、その深みをたたえた自由な歌声を、じっくりと堪能するのにうってつけのアルバムだろう。

また、『HELP EVER HURT NEVER』のアナログ盤がアンコール・プレスされ、9月1日(水)に発売される。

と、コロナ禍のさなかでも新曲の発表や、〈VIVA LA ROCK 2021〉のような大型イベントへの出演、リラックスした演奏と語りによる配信(〈ねそべり配信〉は最高!)などで積極的に発信し、話題が途切れることのない藤井 風。彼が、“旅路”から2か月で、早くも新曲“きらり”をリリースした。本日5月21日には、ミュージック・ビデオも発表されている。

リリースされるやいなや、当然のように各ダウンロード・チャートで首位を獲得。もはや誰も藤井 風の勢いを止められない、なんて言いたくなってしまう。

“きらり”は、Honda〈All-New VEZEL e:HEV〉のCMソングとして書き下ろされたこともあり、4つ打ちのビートが中心の、とても軽快なポップ・ナンバーだ。Aメロのメロディーラインは低く、一聴して起伏は少なくなだらかだが、サビで高音へと駆け上がるさまや、さりげない転調のドライヴ感がとにかく爽快だ(その高音が、〈連れてって〉〈どこまでも〉といったフレーズと相乗効果を生んでいる)。「いただいたGood Grooveという言葉に導かれて、最高に気持ちのいい曲が誕生してしもうた! これがみんなの何もかもをキラリと照らして、どこまでも連れてってくれるわ! この素晴らしい出会いに大感謝! Good Groove!」とは、藤井 風のコメント。〈!〉を4回つけたくなるくらいにグルーヴィンで〈最高に気持ちのいい曲〉であることは、まちがいない。

プロデューサーは、藤井 風とは名タッグと呼びたいYaffle。前作“旅路”はオーガニックでソウルフルな質感だったが、他方こういったエレクトロニックなダンス・ポップも制作できるYaffleの多才さ、その手腕は、ほんとうに見事だと感じる。藤井 風が書く幅広い楽曲の核や表現の内容を瞬時につかみとって、それに応じたサウンドに仕立て上げられるのは、Yaffleが藤井 風の音楽をよく理解しているからこそだろう。

連載〈Mikikiの歌謡日!〉で紹介した際にちらりと書いたように、冒頭、〈さらり〉という言葉が曲名の〈きらり〉を予感させるのに、まずはっとする。歌詞の文末に配置されているのは、〈さらり〉〈ほろり〉〈ゆらり〉など、〈きらり〉と韻を踏む言葉の数々だ。さらに〈さらり〉や〈きらり〉の節回しは、語尾を伸ばしたり、力強く歌い切ったりと、似た音でも表現が変わっていく。そうやって、一曲を通して形作られている音韻のリズムは、リニアなビートや太いベース、リズミカルなギターとあいまって、楽曲全体の軽快さを生み出している。こういった擬態語、擬音語を多用した躍動感のあるリリックは藤井 風のシグネチャーで、“きらり”ではその個性が特に発揮されていると言える。

歌詞は、ラヴソングに読める(もしドライバーだったら、愛車に向けた歌に聴こえるかもしれない)。とはいえ、〈新しい日々も 拙い過去も 全てがきらり〉というラインは、“旅路”で歌われた人生の長い旅路を優しく包みこむ言葉と呼応しており、ラヴソングを超えたユニヴァーサルな広がりをもたらしている。かと思えば、目の前にあること、身近なものに美や肯定性を見出していくことも歌われている。この、どこか達観して透徹した優しさには、ああ、やっぱり藤井 風の歌だな、という感動がある。

移動が制限されているコロナ禍の閉塞感を吹き飛ばす、ドライヴ感と爽快感。その一方で、どこか遠くへ行かなくても、手が届かないものを求めようとしなくても、〈ここに〉あるものを称えよう、という態度。“きらり”には、そんな2つの要素が詰め込まれているように思う。

出す曲出す曲最高、という藤井 風の快進撃は、まだまだ続きそうだ。そんな予感や余裕も感じさせる、すばらしい一曲である。