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自由奔放な制作を経て

変態紳士クラブ 『ZURUMUKE』 1%/トイズファクトリー(2021)

 コロナ禍で表立った活動が制限されるなか、制作における自由奔放さを極めた彼らのファースト・アルバム『ZURUMUKE』の核を担うのは、生音を縦横無尽に操り、メロウネスを生み出すGeGのトラックだ。

 「僕は周りのミュージシャンを食わすのが昔からの夢というか、目標やったんですけど、バンド時代はそれを叶えることができなかった。でも、プロデューサーになったいまもその気持ちは変わってないんですよ。変態紳士でサンプリングを一切使ってないのはその表れというか、周りのミュージシャンがスゴいので必要ないというか。もちろん、サンプル・ビートの良さはわかっているんですけど、そういうトラックはその道のプロに任せて、自分は自分のやり方を極めたい。自分はトラックメイカーもですが、プロデューサーなんです。ちなみに作り方は、自分で作った曲の原型をLINEで送って、〈あとはよろしく!〉って。それで向こうで弾いてくれたフレーズをチョップして、トラックにまとめ上げていくやり方ですね」(GeG)。

 「その原型の時点で俺とタカの希望を伝えて、そこから先はほぼ口出しせず、色付けは任せているんですけど、その色付けが長いんですよ。ミュージシャンとの間で音を何往復もさせて、ミックスは1曲につき30ヴァージョンとか? いちばん手が掛かったもので50ヴァージョンとか、気の遠くなる作業でしたよね」(VIGORMAN)。

 GeG主催のイヴェントが初めてのライヴだったというkojikojiをフィーチャーし、本作の特徴であるストリングスを最大限に活かした“Eureka”からファンキーなダンス・トラック“Get Back”、オーセンティックなヒップホップ、レゲエのエッセンスをエモーショナルに響かせる“Sorry”まで、そのサウンド・アプローチは多種多彩。そこに各人がスキルを磨いてきたWILYWNKA、VIGORMANのラップ、ヴォーカルの柔軟さが加わり、唯一無二の世界観が生み出されている。

 「1つのトピックで丸々1曲、3ヴァース分を練り上げて書くソロに対して、変態紳士は自分が1ヴァース、1フック書いて、タカが残りを書いてくれたらもうその時点で曲が出来ちゃうので、変態紳士ではそれぞれのパートが濃く、瞬発力が髙いんですよ。ソロはソロで言いたいことを余すことなく1曲に詰め込めるからそれはそれで好きなんですけど。俺らは嫌いな宿題を持って帰りたくないので(笑)、一回スタジオに入ったら意地でも書き切りますね。今作で制作したスタジオは大阪、東京はもちろん、寒い季節に夏の曲を作りたくなったら沖縄や宮古島に行って“GOOD and BAD”や“Hey Daisy”を書いたり、“Get Back”は“湾岸TWILIGHT NIGHT”(『ZIP ROCK STAR』収録)のパート2をイメージしてるので、当時EPの制作合宿をしてた兵庫の作用町っていう町に改めて行ったり。まあ、でも、結局はなんか理由をつけて旅行したかっただけかもしれないです(笑)」(VIGORMAN)。

 そんな自然体の遊びノリで生み出された楽曲群は、アルバム・タイトルである『ZURUMUKE』そのまま。気持ちいい海風に吹かれたかと思えば、ハイウェイを飛ばしてパーティーへ。そこで酒を呑んで呑まれて、アガったりサガったり。その過程でどうしても浮かび上がってくるエモーショナルなタッチにこそ変態紳士クラブらしさがある。

 「“YOKAZE”なんかは人生最大の二日酔いのなか生まれた曲だったりするんですけど、俺、酒鬱がヒドくて、曲を作ることによって、自分を慰めるみたいなところがあったりとか(笑)。今回のアルバムも聴き進めていくにつれ、昼から夜になっていって、“P-BOYZ”以降は酒ノリになっていくんですよ。だから、暗くなる前の夕方16時すぎくらいから、このアルバムをドライヴしながら聴きはじめると、時間と共に気持ちよく聴けるんじゃないかなって思いますね」(WILYWNKA)。

メンバーたちの参加した近作を一部紹介。
左から、HIBRIDの2018年作『Hibrid or Die Vol.1』(Hibrid/Manhattan/LEXINGTON)、TENG GANG STARRの2018年作『ICON』(bpm tokyo)、YMGの2018年作『1999』(VLAD)DJ RYOWの2019年作『DREAMS AND NIGHTMARE』(DREAM TEAM/MS)、Shurkn Papの2019年作『The ME』(Island State Music)、Leon Fanourakisの2021年作『SHISHIMAI』(1%)、どついたれ本舗/Buster Bros!!!の2021年作『どついたれ本舗 VS Buster Bros!!!』(EVIL LINE)