SEKAI NO OWARIが10周年を経て完成させた待望の最新作は〈香り〉をテーマにした初のコンセプトアルバム『scent of memory』。メンバーが今作に込めた記憶の香りを楽曲とともに紐解いていこう。
ここにSEKAI NO OWARIの6thアルバム『scent of memory』が完成した。Saoriが奏でるたしかな緊張感をまとった壮麗なピアノのインストゥルメンタルから作品の幕が上がる。タイトルは“scent of memory”。そう、アルバムの表題曲だ。続く2曲目は“Like a scent”。ここで、いきなり衝撃が走る。打ち込みのビートの上で坂本龍一の楽曲“Happy End”から引用したピアノフレーズとストリングスが絡み合い、そこにFukaseのラップが乗っていく。挑発的で攻撃的な、かつて覚えた強い怒気や絶望を青い炎であぶり出すようなリリックを編みながら。
〈ふっと鼻をつく忌々しい記憶の匂い はっきりした血の臭い ジャンキーたちのくせぇ息 ヤニにまみれたクズの聖域〉
〈ゴミ箱に捨てられた精液 一目で解るこいつらの性癖 多勢に無勢とか くそウゼェけど 有象無象なのは俺も同族〉
無慈悲な暴力の記憶。閉鎖病棟の中で自らの病と向き合い、格闘し、克服した時間。そしてポップスターとなった現在地の信条と矜持が、Fukaseの口から遅速緩急をつけたフロウと囁くようなフックの中で語られていく。彼がここまで実録的かつ鮮烈な筆致で自らの半生を描写するのは初めてではないだろうか。
〈あの憎しみを音に変えた そしたらそれが世界を変えた 俺が創り上げたファンタジー 今日も踊ろうぜファンたち〉
〈産まれながらに持たない者の感覚 答えはいつでも三 俺が銀河街で見つけた答え それを大切にしてくれてる子さえ それもちゃんと知っている 嘘にならない様に戦ってる あの歌が嘘にならない様に 俺はスターで居続けたいんだ〉
2020年、SEKAI NO OWARIはデビュー10周年を迎えた。バンドは新型コロナウイルスの影響でさまざまなスケジュールの立て直しを余儀なくされたがしかし、そんな状況にあってニュー・アルバムに先駆けた新曲、さらには7年越しの制作期間を経て作り上げたEnd of the World名義のアルバム『Chameleon』のリリースなど、可能なかぎり精力的な活動を展開。年が明け2021年2月にはリリース延期となっていたデビュー10周年を記念した初のベスト・アルバム『SEKAI NO OWARI 2010-2019』をリリースした。
2枚組でリリースした前作『Eye』と『Lip』以来、2年5か月ぶりとなる本作『scent of memory』はバンドにとって初のコンセプト・アルバムであり、タイトルで示されているように、そのテーマは〈香り〉である。全12曲で構成され、1万セット限定のキャンドル盤にはメンバープロデュースによって各楽曲をイメージして作られた12種類のアロマキャンドルが同梱されている。
前述の“scent of memory”と“Like a scent”を経て、アルバムはドラマティックな展開を見せていく。歌謡性に富んだサウンドとメロディで降り止まない悲劇を映し出す3曲目“umbrella”(カンテレ・フジテレビ系ドラマ「竜の道 二つの顔の復讐者」主題歌)。
同じく歌謡曲に接近するムードと現代的なサウンドイメージ、サウンドエフェクトでコーティングされたSaoriのボーカルが印象的な4曲目“陽炎”。どこまでもロマンティックな感触に満ちたSEKAI NO OWARI流のクリスマソングの5曲目“silent”(TBS系 火曜ドラマ「この恋あたためますか」主題歌)。
イノセントな冒険心が無限の可能性をあきらめずに躍動するストーリーとともに、アルバムの様相が一気にポップに開けていく6曲目“周波数”(TOKYO FM 開局50周年アニバーサリーソング)。トラップのテイストも織り交ぜた優しいワルツのラブソングをNakajinが歌う7曲目“正夢”。部屋に射し込む朝の陽光にささやかな希望を見出すゴスペルポップナンバーの8曲目“バードマン”(フジテレビ系「めざまし8」テーマソング)。
全編英詞のリリックとハイブリッドなEDMサウンドがEnd of the Worldの音楽性との共振も感じさせる9曲目“Dropout”。家族という何よりも普遍的で特別な関係性が紡がれるハートウォーミングな10曲目“family”(テレビ朝日系ドラマ「IP~サバイバー捜査班」主題歌)。トライバルなビートも取り入れ、ダイナミックに荒野を行進するようにしてかけがえのない友情を描く11曲目“tears”。そして、SaoriとNakajinのピアノの連弾によって作品を閉じる12曲目“Utopia”。
リスナーの数だけある『scent of memory』=記憶の香り。バンドの軌跡を浮かび上がらせるようにしてSEKAI NO OWARIがクリエイトした12通りの最新のポップ・ミュージックが、あなたのそれを刺激的に、豊潤なまでに引き出すだろう。