Photo by Henry Diltz

“Late For The Sky”(74年作『Late For The Sky』収録)

暗闇に包まれ、灯りのともる家の前に停まった一台のシボレーと、その上に広がる青い空。ベルギーのシュルレアリズム画家ルネ・マグリットの連作「光の帝国」に影響されたアートワークも印象的なサード・アルバム『Late For The Sky』のオープニングを飾るのが、このタイトル曲だ。朝の便の飛行機に乗り遅れるからと恋人に別れを告げるこの曲は、マーティン・スコセッシ監督の映画「タクシードライバー」(76年)でも効果的に使われ、ロバート・デ・ニーロ演じる主人公の孤独と、虚ろな心情を際立たせていた。

同作のリリース後、『The Pretender』(76年)の録音中に最初の妻フィリス・メジャーが自殺するという悲劇が起こり、以降の彼はブルース・スプリングスティーンと呼応するようなハートランド・ロック寄りの作風に変化していく。それだけに、『Late For The Sky』はいろいろな意味でひとつの区切りと言える作品だ。

 

“Running On Empty”(77年作『Running On Empty』収録)

アルバム『The Pretender』がヒットを記録し、過密なスケジュールをこなすことになったジャクソンは、ツアー中のホテルやバス、ライブ会場の楽屋で新曲を録音し、そのままアルバムとして発表するという、斬新な手法を試みる。こうして完成したアルバム『Running On Empty』のタイトル曲が、のちにアニマル・コレクティヴのアルバム名にもなったメリーランド州ボルチモアの野外コンサート会場、メリウェザー・ポスト・パヴィリオンで録音されたこの曲だ。

ちなみに〈Running On Empty(空っぽのまま走り続ける)〉というタイトルは比喩ではなく、実際にガス欠の車を運転していたことに由来しているそうだが、映画「フォレスト・ガンプ/一期一会」(94年)でも主役のトム・ハンクスがアメリカ大陸を走り続けるシーンで使われるなど、代表曲のひとつになった。

 

“Somebody’s Baby”(82年の映画「初体験/リッジモント・ハイ」のサウンドトラック収録)

音楽雑誌「ローリング・ストーン」のライターだったキャメロン・クロウが原作と脚本を手掛け、ショーン・ペンやジェニファー・ジェイソン・リー、ニコラス・ケイジ、そしてフランキー・コスモスの母親でもあるフィービー・ケイツといった、のちのハリウッド・スターたちが出演した青春コメディー映画「初体験/リッジモント・ハイ」。そのサウンドトラックに提供されたのがこの曲で、全米7位というキャリア最高のヒットを記録した。

共作したのはキャメロン・クロウの友人だったというセッション・ギタリストのダニー・コーチマーで、79年には原子力発電に反対するイベント〈No Nukes〉を主催するなど、徐々に政治色を強めていた当時のジャクソンとしては異色ともいえる能天気なラヴソングだったが、それがかえって良かったのかもしれない。