シンガー・ソングライターとしてのデビューから2年あまり。とくにこの1年ほどは、心強いバック・バンドの3人──伊東真一(ギター、HINTO/SPARTA LOCALS)、岡部晴彦(ベース)、吉澤響(ドラムス、セカイイチ)とのたくましいバンド・グルーヴを聴かせながら、独特の言葉選びやメロディー、パフォーマーとしての魅力をより輝かせてきた木下百花。

そんな彼女が先ごろ配信リリースしたシングル“えっちなこと”が、ちょっとただならぬものになっている。グループ・アイドル在籍時にもやったことがなかったぐらいブリッブリでラヴリーなヴィジュアルからしてびっくりの、王道アイドル・ポップの香りをにじませたグルーヴィーなポップ・チューンとなったこの曲。サウンド・プロデュースは初の手合わせとなるNONA REEVES/ZEUSの奥田健介! ……ということで、ここではお2人に顔を揃えていただき、制作にまつわるエピソードや木下百花が日頃思っていることなど、対談のなかから探ってみようという次第!

木下百花 『えっちなこと』 441(2021)

〈知らない〉と大声で言う木下百花

──制作に入る前、お互いがどういう人かという〈お見合いの場〉があったかと思いますが。

奥田健介「1回だけZoomでミーティングをしました。最初からわりと具体的なことを話してましたよね。なんとなくこういうもので、みたいな感じではなくて」

木下百花「なかったですね、まったく」

奥田「いきなりアレンジの方向性とか(笑)」

──それまでお互いのことを深くは知らなかったんですよね。

木下「そうですね。深く知ってるとかではなくて、たぶんすごい……なんやろ、好きで聴いていても、深く掘るとかはあまりしなくて」

奥田「ノーナに限らずってことですよね」

木下「そうです。だから、NONA REEVESの好きな曲もいくつかあったけど、全部を知ってるとかではないんですよ。最初に好きになったノーナの曲は“パーティーは何処に?”(2000年)。私、明るい曲があまり作れなくて、何かすごくにじんでる曲ばっか作っちゃうんですけど、明るい曲を作るんだったらこれっていう基準になる曲が“パーティーは何処に?”で、ちょっとパクらせてもらってるんですよ(笑)。ギターとかいまだに詳しくないんですけど、これやっとけば弾けてる風なんちゃうか、チャカチャカしとけば明るくなるんじゃないかとか、そういうネタをあの曲にもらっています(笑)」

NONA REEVESの2000年作『DESTINY』収録曲“パーティーは何処に?”
 

奥田「あれ、4つしかコードが出てこなくて、ずっとその繰り返しで、言ってみれば本当にチャカチャカやってるだけ。コードの4つさえ覚えたら参加できるっていう曲だからね。あの曲は(西寺)郷太の曲ですけど、まあ、〈明るい曲〉っていうインスピレーションを与えられてたっていうのは嬉しい。光栄です(笑)」

木下「〈今回、NONA REEVESの奥田さんはどう?〉と言ってくれたのは、いつもバックで叩いてくれてる(吉澤)響さんなんです。響さんから訊かれたときに、〈あ、好きです!〉と」

(左から)木下百花、奥田健介
 

──木下さんは、言ったら〈すごくいいオジサンたち〉に囲まれてますよね(笑)。つるむのもすごく上手というか、会話がちゃんとできるというか。

木下「何か尊敬できる人とじゃないと、お仕事をしたくないみたいな(笑)」

奥田「そこまではっきりしてるから、お互いやりやすい」

木下「私があまり音楽に詳しくないからいいのかな、とも思うんですよ」

奥田「半端にわかってると、お互い言葉を選んじゃったりするし、それがよい場合もあるけど、遠回りしてるだけになることもある。そういう意味では、百花さんとは最初からすごく意図の伝わるコミュニケーションができたので、そのあとの作業も早かった」

木下「本当ですか」

奥田「言いたいことがめっちゃわかるから、〈これはピンときてないな〉というのもわかるし」

木下「最初から〈私わかんないんですけど〉って言うと、たぶん相手も身構えないというか。私は本当に知りたいだけなので、〈知らない〉と大声で言うんです(笑)」

奥田「それ大事です。〈知らない〉と言いつつ、ちゃんと体感できているのはわかる。最初にデモを聴いたときも、言いたいことっていうか、骨格自体はすごくはっきりしてたから、そういう意味では楽だった」

木下「嬉しいです」