木下百花は木下百花

無邪気、天真爛漫、破天荒、フリーダム。どんな形容詞も彼女を表現しようとした途端に、急に色あせて嘘っぽくなる。それほどまでに、東京・渋谷CLUB QUATTROのステージに立つ木下百花は木下百花でしかなかった。

名古屋ではAnalogfish、大阪ではリンダ&マーヤを迎え駆け抜けてきた、6月発表のEP『また明日』のリリース・ツアーが、7月29日の東京公演でファイナルを迎えた。この日の対バン相手は、木下が愛してやまない3人組ロック・バンドの羊文学。激しい楽曲中心のセットリストをほぼノンストップで繰り広げると、主役である木下へバトンタッチした。

 

真夏の太陽のごとき輝き

松田聖子、不朽の名曲“SWEET MEMORIES”を背に、紺色の浴衣に厚底スニーカーというファッションで木下は登場。ハツラツとした声で〈よろしくお願いします!〉と叫ぶと、ファースト・アルバム『家出』のオープニング・ナンバーである“強さ”でライブの幕を開けた。とにもかくにも、1曲目からエネルギーが凄まじい。ものすごくパワフルな人やモノに出会うと、いきなり真夏の太陽に照りつけられたように感じることがあるが、彼女も、まさしくそれだ。〈いまの最高〉を抜かりなく鳴らした爆発力で、一瞬にして会場を掌握してしまったのである。

セットリストは『また明日』の収録曲にファースト・アルバム『家出』(2020年)の楽曲を盛りこみながら展開。“グリルパインベーコンブルーチーズアボカド”でクラップを巻き起こしたかと思えば、“月が見える”では透き通った歌声を響かせる。

 

アイドルだったり大阪のおばちゃんだったり

ひと際、木下の瞳に力強さが宿っていると感じたのは“誰かの隣でパーティーをしていたい”だ。ワード・チョイスの優しさとは裏腹に、歌詞がズンズン胸へ刺さってくる。木下自身もMCで〈とても大切な曲〉と話していたが、強い思いがこめられているがゆえの重さなのだろう。〈あの日の朝日〉と歌うときに客席から外した視線は、会場ではなく記憶のなかを泳ぎ、かつての〈あの日〉を思いだしているようだった。

その後もMCでの歯に衣着せぬ発言を挟みながら“卍JK卍”や“ダンスナンバー”など、多彩な楽曲を披露していく。きゅるるんとアイドルっぽい表情を浮かべてみたり、大阪のおばちゃん顔負けにガッハッハと笑ってみたり。1曲ごとに新たな一面を見せ、魅せてくれるものだから、木下百花とはどんな表現者なのかがわからなくなるが、一方で〈これぞ木下百花だ〉という安心感もある。彼女の存在感は〈「こんな人」なんてカテゴライズに、誰かを当てはめるなんてナンセンス〉とあけ透けに物語っていた。

 

木下百花は固定観念を崩す

ラスト・パートでは〈衣装を仕込んでるから脱ぐね!〉とステージ上で早着替え。ピンクのキャミソールにチェンジし、アイドル・モーションたっぷりにライブ翌日の7月30日にリリースされた最新シングル“えっちなこと”をパフォーマンスした。最後は“アイドルに殺される”で会場を煽りつくしフィニッシュ。いまあるエネルギーを全て放ちきり、全10曲をやりきったのだった。

元アイドル、バンドマン、ギター女子、シンガー・ソングライター。世の中の人は自身が安心するために、木下百花のことを勝手な憶測でラベリングしたがるかもしれない。しかし、ステージに立つ彼女を見れば、自分が固定観念で自分の世界を作っていたのだと気づいてもらえることだろう。ぜひナマモノの木下百花に触れ、凄まじいエネルギーを浴びてほしい。

 


SETLIST
1. 強さ
2. タクシードライブ
3. グリルパインベーコンブルーチーズアボカド
4. 月が見える
5. 誰かの隣でパーティーしていたい
6. 卍JK卍
7. ダンスナンバー
8. 家出
9. えっちなこと
10. アイドルに殺される

 


RELEASE INFORMATION

リリース日:2021年6月16日
価格:2,000円(税込)
品番:KSMMK003

TRACKLIST
1. 家出
2. タクシードライブ
3. グリルパインベーコンブルーチーズアボカド
4. 月が見える
5. 誰かの隣でパーティーしていたい