知人のライブを観に行ったら、その出番の後に、〈E Esus4 E E AM7 E〉というコード進行をそのまま歌詞にした、世にも不思議な歌を(活舌悪めに)歌ってる男がいた。それが茶封筒というバンドのギター・ヴォーカル、らすてぃー氏との出会いだった。

“じじいFC”というその曲は、歌詞の全てがコード名でできていて、そこに意味なんて無いはずなのに、〈ああ、Edimってほろ苦いコードだなあ〉〈このだんだん明るくなってくるところは、やっぱりマイナーコードからメジャーコードに変わってるし上昇していってるぞ〉などと聴きながら思わず何かを考えてしまうものだった。それはふざけているようで大真面目であり、でもやっぱり大真面目なようでいてふざけたものだった。同時に、ジョン・ケージの“4分33秒”のことを初めて知った時のような、音楽の自由さを感じた(しかしなぜ、じじいのFCなんだ?)。

茶封筒のファースト・アルバム『野蛮』は、やっぱりふざけているようで大真面目なようで、でもやっぱりふざけたようなアルバムだ。まずレコーディング・アルバムなのにMCが収録されているのである(CDのみ)。それに、ライブ中に電話がかかってきたり(“ナビダイヤル”)、〈婚活中のとんかつ美味えよ〉と嘆いてみたり(“婚活中のとんかつ”)、なぜか歌詞に〈沢田〉しか出てこなかったり(“沢田”)と、歌詞も思わずクスリと笑ってしまうようなものばかりだが、本人たちは大真面目なんだから聴いてるこちらとしては笑っていいのか分からない。そこが面白い。メンバー3人の出す音も、時に牧歌的なロックだったり、シティ・ポップ風だったり、ゆるいサイケっぽさがあったりして、肩肘張らずに聴けるのが歌詞の中毒性を高める一因になってるように感じる。たぶんそれが彼らの〈野蛮〉なやり方なんだと思う。

MCのおかげで、コード名の曲がなぜ“じじいFC”というタイトルなのかも分かってスッキリだ。