90sヴィジュアル系のリバイバルを掲げるバンド、色々な十字架。メンバーはtink(ティンカーベル初野、ボーカル)、kikato(タカユキカトー、ギター)、tacato.(ナカネタカト、ギター)、misuji(イトウリョウ、ベース)、dagaki(金子タカアキ、ドラムス)の5人で、2023年にファーストアルバム『少し大きい声』をリリースして以降、ライブの規模も広げ、(エイプリルフールの嘘から始まったにもかかわらず)キャリアを着実に重ねている。

そんな色々な十字架が、〈本物のヴィジュアル系バンド〉としての覚悟を決めて(!)制作に臨んだというセカンドアルバム『1年生や2年生の挨拶』を完成させた。今回はライターの藤谷千明が、11月23日開催の東京キネマ倶楽部でのワンマンライブを控えていたメンバーたちにアルバムについてインタビューした。 *Mikiki編集部

色々な十字架 『1年生や2年生の挨拶』 元気で笑顔が輝くレコード(2024)

 

挨拶が大きければ何でもいい

――2020年4月のエイプリルフール企画からスタートした色々な十字架ですが、2枚目のフルアルバム『1年生や2年生の挨拶』をリリースするまでに至りました。アルバムタイトルは、どなた発案なのでしょうか?

tink「私です。2月頃に〈アルバムをリリースしたい〉とウルトラ・ヴァイヴさんに相談して。そこで〈11月を目処に〉という話になったので、カレンダーを確認したら11月13日が〈あいさつの日〉だったんです。どこかの団体が取り決めたらしく、それを見て〈いいじゃん!〉って」

kikato「今検索したところ、一般社団法人日本あいさつ検定協会でした」

tink「色々な十字架は挨拶ネタが多いですから。挨拶が大きければ何でもいいみたいなところがある。そういうこともあって〈あいさつの日〉からインスピレーションを得ました」

――色々な十字架の自主レーベル名も〈元気で笑顔が輝くレコード(GEKR)〉ですしね。

misuji「他にも候補はありました。たとえば、〈朝や夜の挨拶〉、〈送迎の挨拶〉、〈うるさ挨拶〉……。〈ごぼう〉、〈ぶどう〉、〈親子すずめの宿なりけり〉だとか」

――後半、〈挨拶〉から離れていませんか。

misuji「あとは〈大丈夫〉なんてのも」

――反対に心配になりますね。最終的に『1年生や2年生の挨拶』になった決め手は?

tink「ファーストアルバム『少し大きい声』からのつながりというか、親和性のあるタイトルがいいなと」

――〈声〉から〈挨拶〉へ。

kikato「その意味では〈とびきり元気な会釈〉も候補としてあったね」

misuji「俺、それ結構好きや」

tink「ジャケットに花の写真を使っているので、〈ごぼう〉や〈ぶどう〉だと、〈ごぼうの花?〉みたいな印象を与えてしまうかもしれませんし。あと、ひらがなの短い言葉より、漢字が入っていた方がデザイン的に締まるかなと」

――そこまで考えられたタイトルだったんですね。

 

「きかんしゃトーマス」とディストピア

――収録曲のことも聞かせてください。1曲目は“繋がれた脳と線路という名の檻と赤”。一見ヴィジュアル系風の言葉遣いだけれど、タイトルの〈線路〉、〈赤〉、あるいは歌詞の〈人面シュポポ〉などから「きかんしゃトーマス」のことを歌っているとわかります。

tink「以前Twitter(現X)に投稿したネタですね」

dagaki「あのネタ大好きだよね〜。長ったらしいタイトルもさ、ヴィジュアル系の伝統っぽくていいよね。意味深な感じがね」

tink「それもやりたかったことのひとつです」

――サウンド面でもヴィジュアル系の様式美が詰め込まれています。

tink「リファレンスの大元はフィオーレだよね」

tacato.「なかでも“君が望む永遠と僕が欲しかった唯一の倖せ”がリファレンスです」

――フィオーレは、2000年代中盤に活動していたインディーズバンドです。お好きだったんですか?

tink「去年、umbrellaとツーマンをやったときに、ベースの春さんに(フィオーレのことを)教えてもらったんですけど、すごくかっこいいなと。ああいうネオ(ヴィジュアル系)っぽい速い曲が好きで、フィオーレや初期ガゼット(the GazettE)のような曲を作りたかった。

色んな要素が詰まってますね。イントロはcali≠gariの“暗中浪漫”のリズムだったりするし、Bメロはアレンジを進めていく中で涼平さんがいた頃の彩冷えるっぽさが加わっていきました」

tink「で、編曲はテケトク(tacato.)に丸投げしました」

tacato.「かなり悩みましたね。とくにギターは」

――間奏のセリフを経たあとのギターソロなんて、いかにもヴィジュアル系!といったカッコよさです。

tacato.「ああいうのが好きなんですよね。ヴィドールの“人魚”みたいな、違うフレーズが混ざってひとつのフレーズになっていくようなものが。前作(『少し大きい声』収録“蜜”など)でもそれに近いことはしていたので、その延長線ともいえます」

tink「あとは、キメを意識しました。ジャラッジャーン!みたいな」

kikato「シンコペーションもすごい入ってるし」

tink「ベースのスラップが前に出てきて〈ヴォイ! ヴォイ!〉みたいなのもやってみたくて」

――セリフもヴィジュアル系っぽい独白ですが、よく聞くと〈ねえハロルド〉と呼びかけていますし、世界観に一貫性がある。

tink「セリフはレコーディング当日だったか、直前に思いついて入れることにしたんですよ」

――ハロルドはヘリコプターだから〈君のように飛べたら〉と。

tink「でもですね、ハロルドだって燃料がなくなったら飛べないし、本当の自由ではないんですよ。結局ディストピアなんです」

――自由とは……?という。

tink「『TRUMP』シリーズが好きなんですけど、この曲を作った時期に新しい舞台(『マリオネットホテル』)を観たばかりでそういうセリフになっちゃってるのかも」

dagaki「それはさすがに怒られるんじゃない?」

――永遠に続く箱庭的な閉塞感は、「TRUMP」シリーズと通じるものがあるかもしれ……ません。

 

散らない花びらは内定が決まらない僕らのよう

――2曲目“スワロウテイル”のイントロから歌いだしまでの流れ、ヴィジュアル系っぽくもあり青春っぽさもある。

tink「この曲の歌詞には力を入れました。〈真面目パート〉って呼んでいる部分が秀逸であればあるほど、その後に来るボケが生きるというか。そこの落差は大事だと思っています」

――お笑い論の〈緊張と緩和〉的な。〈過ちとしてち散らぬ花弁 ただの風さえ語りかけて〉なんて、情景が浮かびますね。そのあと急に〈一次面接〉という言葉が出てくることによる落差はたしかにすごい。

tink「〈散らぬ花弁〉は就活で採用されない者たちのことを歌っているんです。散らない、まだ残ってる花びらは、まるで内定が決まらない僕らのようだね……みたいな。ちなみに、この曲は前作の“花言葉がうまれる会”とつながっているんです」

dagaki「オムツで逮捕されて、スーツでボランティア活動頑張って」

tink「で、就活へ。でも、燕尾服着てる」

tacato.「この曲のイントロは黒夢の“少年”のギターをかき鳴らす感じを意識しています。全体的には蜉蝣のイメージもありますし」

tink「夕焼けのようなイメージがあって、蜉蝣みたいにしたいなって。で、これもギターは蜉蝣が好きなtacato.くんに丸投げして……」

tacato.「これは悩みましたね。これも、か。全部悩んでんな。試行錯誤した結果、最終的にcali≠gariっぽくなった気がします」

――切ない中にある爽やかさ、たしかにcali≠gariを彷彿とさせる要素がありますね。

tink「そこに引っ張られて、歌い方も若干石井秀仁さん風ではないですけど、伸びやかな感じになったかも」

 

ドラムが上手くてウケた

――そして、“耽美ヶ原小学校 校歌”の作曲はkikatoさん。

kikato「この曲は、暴れ曲(文字通りライブで暴れやすい曲調の楽曲のこと)がもっと欲しいなと思って作り始めたんですけど、Klahaさん在籍時のMALICE MIZERやDのようなイメージで、さらに耽美っぽくしたいなと。すごいメロディアスなのにサビがシャウトしかないみたいな」

――ドスの効いたデスボイスで〈笑顔〉〈挨拶〉〈友愛〉という言葉のギャップが面白いですね。あれは皆さんで?

tink「はい、成田くん(MVやライブのVJを担当する成田拓弘)も言ってます」

――今回、全曲dagakiさんの生ドラムであると伺っています。 ※前作『少し大きい声』のドラムは打ち込み

dagaki「そうです」

kikato「念願ですね」

dagaki「レコーディングがすごく楽しかったです」

kikato「生き生きしてたよね」

tink「ドラム上手くて、ウケた(笑)」

kikato「スタンダードな暴れ曲の音になるかと思いきや、ドラムテックの山本(晃紀)さんが、〈LUNA SEAの『IMAGE』や『EDEN』みたいな音にしたらおもろいんじゃない?〉って」

――乾いた音というか。

kikato「そうそう、その感じで調整してくれて、それがまた曲に息を吹き込んでくれました」

 

隠しきれない隠し味

――次は先行シングルとして配信された“知識”です。作曲はtinkさん。

tink「La’cryma Christiの“Forest”みたいな曲を作りたいなとデモを作って、ラクリマが好きなkikato様にブン投げました」

kikato「〈こういうの弾いてます!〉ってコードを押さえている写真が送られてきました」

tink「自分が弾いてるコードはわかんないんですけど、動画のスクショを送って〈指を読んでください〉みたいな」

kikato「意外とちゃんとしたコードでしたよ。そこにナインスの音を入れてラクリマっぽくしたって感じですね。ナインスって普通のアメリカンポップスとかだと入れないというか、不協和音とされているのだけど、昨今は入れるようになった音で、この浮遊感がラクリマっぽいと思っています」

tink「ベースがそこまで動かなくても成立する曲ではあったんだけど、やっぱ想像を超えたベースラインをmisujiさんが作ってくれて」

misuji「ベースってルートを弾くだけでよかったりするんですけど、それやったら他のバンドと一緒やしな〜、みたいな気持ちはあって。ひと味違う隠し味になったらいいなと思ったら、その隠し味が隠せなくなってる感じになりました」

tink「おかげで、疾走感がうまれてね、表情がね、つきましたね」

dagaki「プリプロで、〈SHUSEさんだったらこうやって弾くと思う〉とか言った記憶があります(笑)」

misuji「“Forest”を聴かせてもらって、(ベースが)独特なことしてんなっていう印象があって。(“Forest”をリアレンジした“IN FOREST”の)MVでもばり暴れてるやん(笑)」

dagaki「SHUSEさんといえば!」

misuji「寄せたかどうかは別として、意識はして作ったかな」

dagaki「ドラムのキックにめちゃめちゃ合わせに行く感じとか、SHUSEさんっぽい気がする。そして、ドラムに関しても実はそこまでLEVINさんに寄せてないですね。純粋に曲に合わせた感じです。あとは、メタルに寄らないように気を付けてはいました」

tink「そうだ、アウトロはライブと変えて、フェードアウトにしてます」

dagaki「90年代すごいたくさんあったもんね」

tink「そこを狙ってやりました!」

 

完全にバイト感覚の結婚相談員

――“ごぼう”はtacato.さん作曲です。この曲は90年代前半の匂いが強い。

tacato.「〈ヴィジュアル系〉という言葉が浸透していなかった頃、黎明期を意識した曲ですね。おもっくそDIE IN CRIESをやりたかったわけですが。CRAZEやD-SHADEの要素もありますし、時代も音楽性も違うけど、強いBメロがあってサビが来る展開はSEX-ANDROIDの影響があります。セクアンってメロディーめちゃめちゃいいのにそっからサビがあるんだ、みたいな驚きがあるじゃないですか。そういうのがやりたくて。だから、好きなバンドの好きなところを寄せ集めたっていうか」

tink「この曲のおかげで、アルバムの幅が広がったよね」

tacato.「シンプルにサビで拳が上がる感じのロックンロールって、実はこれまでの色々な十字架にはなかったから、そういう曲があってもいいのかなって。あとは変な言葉をお客さんに言わせたかった。初野(tink)が作ったよくわかんないワードをみんなに大声で言ってもらいたいです」

tink「歌詞の主人公は会社員なのに感覚が高校生みたいなんです。そんな青さを表現しました」

――結婚相談所のスタッフですよね。

tink「はい。なのに、完全にバイト感覚」

dagaki「この人、恋愛のことなんもわかってないよね。気持ちが高校生だから」

――高校生くらいの感覚だと、そりゃあ〈愛する人と離れても ラウワン行けばいいじゃん〉ってなりますね。

tink「人に頼るなっていうし」

dagaki「その責任感の無さも高校生バイト感が」

tink「そして、最後だけ関係ないことを言ってるんです」

――〈地中にあったでかい石 それが工事を阻んだ〉って、やはりこれまでの話と関係ないですよね?

tink「はい、関係ないです。ずっとやりたかったんですけど、ようやく出せましたね。この技を」

dagaki「ここまで関係ないのは初だね」

 

サドル然としたサドル

――“GTO”はkikatoさん作曲です。

kikato「〈(tinkから)MALICE MIZERを意識した曲を〉と言われて作りました」

tink「サードワマ(ワンマンライブのこと)のために、ミュージカル系の曲をもう一つやりたいよね、と。“機械じかけの変態~ラケット女王様~”では『テニミュ』(ミュージカル『テニスの王子様』『新テニスの王子様』)を踏襲したので」

――“機械じかけの変態~ラケット女王様~”は、「テニミュ」的な2.5次元舞台風のセリフの応酬とMALICE MIZER調のサウンドで構成された曲で、ライブではなぜかバトミントンのラケットを使用したパフォーマンスも見どころですね。

tink「だから次は『ハイキュー!!』か『ペダステ(弱虫ペダル)』しかない!と。『刀剣乱舞』はKOUGU維新がすでにやってますし。楽屋でそういう話をしていたときに、メイクさんが〈サドルですよ〉って。

チャリのパーツをただ換えただけなのもつまらないし、そこからどのようにサドルを表現するかってなったときに、小学校の6年生を送る会で男プリキュアA(地元のダチ)が一輪車の出し物をやっていたのを思い出して、サドルがメインの車体である一輪車を題材にしました」

――「ペダステ」はキャストが手にしているハンドルで自転車レースを表現する演出が特徴ですよね。一方、“GTO”はサドルであると。メイクの方も、色々な十字架の世界観を理解していることが伝わってくるエピソードですね。

tink「その人は舞台メイクもやってるからっていうのもあったのかも」

――たしかに、近年はヴィジュアル系のメイクや衣装を担当されている方が2.5次元舞台も担当していることは多いです。そういった時代の変化も作風に影響を与えているのですね。

dagaki「あのサドルも歌詞にある一輪車のじゃなくて、実は自転車のなんですよね。一輪車のサドルって長いからパッと見伝わりにくいかなと、自転車のサドルの方がサドル然としてるから」

――サドル然、聞いたことのない言葉が出ました。

kikato「サウンド面もヴィジュアル系だけじゃなくて、2.5次元っぽさと、あとはソシャゲや音ゲーなども意識しています」

――たとえば、「あんさんぶるスターズ!」などでしょうか。

kikato「そうですね。ああいうゲームのヴィジュアル系っぽい、ダークでゴシックな曲……『あんさんぶるスターズ!』内のユニット・ValkyrieにALI PROJECTが楽曲提供していますよね。そういうものを参考にしている部分もあります。90年代のヴィジュアル系ってポップじゃないですか。間口が広かったというか。だからこそ(90年代V系リバイバルを掲げるのであれば)今流行ってる曲の要素を取り入れることも大事かなって」

tacato.「音も初期から随分変わりましたよね。BUCK-TICKの“ICONOCLASM”みたいになった」

kikato「金属っぽい音を加えたりして、グレードアップしてるよね」

tink「ベースがね、いい感じで動いてくれてて……」

misuji「いや、この曲は弾いてへんて!」

――セリフの掛け合いはkikatoさんとtacato.さんによるものですね。

kikato「2人で並んで収録しました。アニメのアフレコ収録と同じです。その方法で録ると空気感も残るんで」

tacato.「セリフのグルーヴが」

misuji「ベースとドラムを一緒に録るようなもんです。リズム隊じゃなくてセリフ隊(笑)」

tacato.「楽しかったよね」

kikato「楽しかったですね」

 

カインズホーム感とヴィジュアル系感の両立

――そして、リードトラックとしてMVも公開されている“LOST CHILD”。作曲はdagakiさんです。リードトラックの選定基準は?

tink「良さ!」

dagaki「ありがとうございます」

――Real Soundのインタビューで、色々な十字架の曲はメンバーが温めていた曲と新規に作った曲があるとおっしゃっています。この曲はどちらですか?

dagaki「僕がギターボーカルだったバンドをやっていた頃に作った曲が原案で、色々な十字架のために作り直したんです。

僕はデモを作り込むタイプなんですけど、この曲はもう……めちゃめちゃしっかり作っちゃったものを、メンバーに渡したらそのまま再現してくれました」

tink「このままが一番いい、完成度高い」

(頷くメンバーたち)

kikato「シンプルによかった」

dagaki「ギターは全編通して絡む感じで、アルペジオもこっちが弾いてこっちが弾いて……みたいな。Bメロも作り込んじゃったから、本当に私のエゴを受け止めてくれてありがとうございました」

――言葉選びが秀逸ですよね。〈カインズホーム大きすぎて ホグワーツくらいある〉って明らかに変なことを言っているけど、語感がいいというか、聴いていて気持ちがいいというか。

tink「元々〈カインズホームがホグワーツみたい〉っていうのは、Twitterでネタとしてやってたんですけど、この曲だなと思って」

dagaki「2017年ぐらいにもうツイートしてたから、結構あっためてたね〜」

――壮大なイントロから始まり、突然一人称の様子がおかしくなる。

dagaki「急に現実に戻される感じ。いや、現実にもあんまり一人称〈ボキ〉の人はいないんですけど。語尾〈にょ〉も2000年代のアニオタくらいですね」

tink「この曲は前作収録の“スイミーはそういうことではないです”と主人公が一緒なのかな」

――“スイミーはそういうことではないです”にもカインズホームが出てきますね。

tink「だから、自然と出てきた口調ですね」

dagaki「自然と?」

tink「書いてく中で〈こいつの語尾はにょだな、ノスだな〉と浮かんできて、〈既存曲の主人公なんだろうな〉ってあとから気づく、みたいな」

kikato「そのおかげでネジだけじゃなくて、アニメにも詳しいんだなって、人となりが浮かび上がってくるんですよ」

tacato.「こういう人いるよね、みたいな」

misuji「アイツ、今日もいる……みたいな」

kikato「愛着が湧くよね」

tink「歌詞の組み立ては頑張りました。Bメロの〈もうパパとママはここにいないけど 多分隣の資材館(しざいのやかた)にいるよ〉っていうところとかとくに」

dagaki「資材館(しざいかん)じゃない〈やかた〉にね」

tink「よく思いついたなと自分でも思います」

dagaki「カインズ感とヴィジュアル系感がちゃんと出ていて」

tacato.「パパとママもヴィジュアル系の歌詞の定番ですし」

tink「無理やり出しているわけではなく、いますからね。家族連れが」

――落ちサビの盛り上がりもすごいですよね。

tink「ねじーのまーにあーですー(歌う)。当初、dagakiはファルセットをイメージしてたらしいんです」

dagaki「はかない感じをイメージしてたんです」

tink「DIR EN GREYも好きだから、京さんのしゃくり上げる歌い方を参考にしました」

――それで、結果的にドラマチックになっている。

dagaki「あんな歌詞なのに、ちょっと泣けるんです」

――自己紹介しているだけなのに。

 

もう大人だからギターと違うフレーズのベースを弾いてほしい

――続いての“かなり耽美(決定)”はフレーズ自体が初期からあるアカウント名でもありますね。

tink「ファーストワマをやる際に、曲を作ったはいいものの、歌詞のモチーフに悩んでしまって。アカウントで掲げてるし、ここで使っちゃおうって思って、軽い気持ちで……。

当時はここまで活動するって思ってなくて。この曲はリファレンスが明確すぎるんですよ。まずはDIR EN GREYの“Schweinの椅子”だし、リフはNCT127の“英雄; Kick It”のイントロと一緒なんです。〈みんな気づくかな?〉みたいな遊び心で入れて」

――リファレンスが明確な場合、どうアレンジしていくのでしょうか。

kikato「なんかもうなし崩し的に……」

tacato.「ライブで育った曲というか」

kikato「デモを作ってないはず」

tacato.「スタジオでシステム・オブ・ア・ダウンの話が出たよね」

misuji「もう大人やから、ギターと同じことをやるわけじゃなくって、ギターの裏で違うリフを弾いてほしいって言われた気がする」

――「もう大人」?

misuji「こういう曲を作り始めの頃って、ギターとベースのフレーズが同じだったりするんですけど、もう大人なんで、1歩先に行ってほしい……みたいな」

tacato.「でもそういうの作る人たちも多分20代だよ」

tink「オレら、成長遅いから」

 

空も飛べるはず

――“汗拭きシートで冬来けり”、トラップから始まるこの曲は新境地と呼べるのでは。

tink「同世代のヴィジュアル系バンドも当たり前のようにラップやトラップを楽曲に取り入れていますし、ヴィジュアル系の歴史を紐解いても、ヴィジュアル系 × ラップ的なミクスチャーの名曲はたくさんある。自分も(ミクスチャーが)好きだけど、そういったものとは別のアプローチを試してみたかったんです。なので、デモのタイトルは〈ノーミクスチャー〉です!」

――それは面白い話ですね。

tink「前半はK-POP、とくに(G)I-DLEの“MY BAG”と、音は“MY BAG”がリファレンスにしているであろうサウィーティーの“Best Friend (feat. Doja Cat)”の要素を取り入れました。リスナーがそこまで辿り着いてくれるかどうかが楽しみです。

後半、歌になっていくのは、ちゃんみなの“美人”に着想を得ています。『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』を観てて、課題曲の“美人”を聴いて〈いいな〜〉と思って。そして後半はDIR EN GREYに……。そんなふうに色々ミックスしてますね」

――ライブでは披露するのでしょうか?

tink「まだやったことないです」

dagaki「アルバムに向けて作った曲なので」

tacato.「こういう実験的な曲も、むしろヴィジュアル系っぽいと思うんですね。DIE IN CRIESの最初のアルバム(1991年リリース『NOTHINGNESS TO REVOLUTION』)とか、めちゃめちゃ実験的でわけわかんなくて、大好きなんです」

kikato「BUCK-TICKの“神風”とかも」

tacato.「『darker than darkness -style 93-』のBUCK-TICKっぽさもある」

tink「インダストリアルというか、その頃のBUCK-TICKっぽい音を入れたいなって話してました」

――歌詞についてお伺いしてもいいですか?

tink「汗拭きシートでタマキンを拭くと、空、飛べるんですよ。それのマニアの曲っす」

tacato.「端的にいうとドMっていう」

tink「おそらく、“かなり耽美(決定)”の人ではないかなと。裸で自転車乗ったりしてるし、つながってる気がします」

 

ゆらゆら帝国のコード進行はヴィジュアル系と同じ

――次の曲行きます。“第13セクターの子供達へ”。

tink「宇宙っぽいVJが先にできていたので、歌詞はそこから生まれました。曲はmisujiさんがヴィジュアル系を通ってないことを活かして、ダブやレゲエ、フィッシュマンズやゆらゆら帝国みたいなことをヴィジュアル系でやりたいなって……。で、(tacato.の方を見る)丸投げ」

tacato.「この曲もめちゃくちゃ悩みました。サビのコード進行がめちゃめちゃゆら帝なのに、ヴィジュアル系と同じコードじゃん、と気づいたりもして。面白い発見もあった曲です」

tink「意外とライブを意識したかもしれないですね。ライブでグワシャーって音像を作る人たちが、音源ベースで音像をファーって作るのはできるかもしれないですけど、〈下北のライブハウス上がりの我々!〉みたいな音が出せるかなと思って、(tacato.に)丸投げしました。元々ダブのバンドやってて、そのバンドが良くてtacato.さんを誘ったので。そういう期待もありました」

tacato.「そしたらシューゲイザーみたいになっちゃった」

tink「それに、フィッシュマンズやゆらゆら帝国をリファレンスにすると、misujiさんがテンション上がるかなって」

misuji「フィッシュマンズは昔から好きでずっと聴いていたんです。自分はヴィジュアル系を通ってきてないんで、ヴィジュアル系がリファレンスのときは新しい曲と出会える楽しみがあるけど、今回の場合は〈わかる! 知ってる!〉みたいな。自然に影響が出たというか、雰囲気は出ているかもしれません。とはいえ、コピーはしていなかったので、難しかったところもあります」

tink「ベースのおかげで当初やりたかったダブやレゲエの感じも出てて」

kikato「ドラムのスタン! ボーン!みたいな派手な残響には、ヴィジュアル系なので80年代に流行ったゲートリバーブも使いました。フィッシュマンズや普通のダブだと、レトロなアナログディレイとかリバーブとかをかけたりするんですけど」

dagaki「ゲートリバーブは90年代のビーイングもよく使ってた気がする」

kikato「ROUAGEもよく使ってるんですよ。ダブっぽさも出るから面白いな〜って」

dagaki「ダブとヴィジュアル系の間の子みたいな不思議な空気になってますよね」

 

おもらしをこんな前向きに描ける人はいない

――ラストを締めくくるのは、“Highway to Tomorrow〜ダイナミックおもらし〜”。

kikato「僕の大好きなL’Arc~en~Cielの『DUNE』オマージュです!」

――透明感があって広がりのある幻想的なサウンド、完全に〈それ〉ですね。

kikato「それだけで終わってもつまらないので、全員のソロパートを盛り込みました。だから、覚えるのがすごく大変で……」

tink「シンプルに、いい歌詞が書けたと思っています。この曲に関しては歌詞を〈書く〉んじゃなくて〈描く〉ですね」

――それもある種ラルク的かもしれません。

tink「〈◯◯のように〉みたいなところは意識したかもしれないですね。〈傷口が癒えるように〉、〈空が晴れ渡っていくように〉みたいな。hydeさんが使ってる言葉そのままではないけど、hydeさんを彷彿とさせるというか」

――これが〈おもらし〉じゃなくて〈涙〉とかだったら、かなり印象が変わってくると思うんですよね。しみじみ体液の上か下かでこんな違うんだなって。

kikato「でも、〈勇気がもらえる〉という感想も多いですよ」

tink「おもらしをこんなに前向きに描ける人はいないな、と自分でも思っています」

 

倫理観が本当にない人間ではない

――ちなみに、〈倫理がない歌詞〉というのは、色々な十字架のひとつの特徴ですが、これまでに倫理的な面でNGになったことはあるのでしょうか?

misuji「今回は初めて止めたことはありますね」

――どんなものだったのでしょう?

tink「”汗拭きシートで冬来けり”の歌詞の題材が、元々とびっこに関するものでした」

――えっ。

tink「遠隔バイブです」

――商品名がわからない意味の〈えっ〉ではなくて、引いてる〈えっ〉です。

tink「野性爆弾のくっきーさんとかが、YouTubeでポップに〈とびっこ〉って話しているのをみて、やれるんじゃないかと」

tacato.「Janne Da Arcの歌詞もかなりきわどいし、それの十字架版と思えばいいのかなと思ったけど……」

dagaki「全員で止めました」

misuji「倫理観が本当にない人間ではないので、信頼しています。今回もダメだと言ったらわかってくれましたし」

――倫理に反するわけではないものの、その判断は正解だと思います。“TAMAKIN”(『少し大きい声』収録曲)がセーフでとびっこがNGである理由の説明も難しいですが……。とにかく、皆さんに社会性があってよかった。

tink「よかったあ」

 

懐が深くて優しいヴィジュアル系の世界

――そして、『少し大きい声』を出して以降、活動の幅が広がっていったように感じます。それがタイトル『1年生や2年生の挨拶』にもあらわれているのかなと。さらに、今月行われるキネマ倶楽部ワンマンはソールドアウト、快進撃と呼んでいい状況です。ご自身ではどう捉えていますか?

kikato「ずっと〈なんで?〉って思ってます。もちろんかっこいい曲やかっこいいバンドをやっている意識はあるんですけど、正直ここまで評価をいただいている理由は未だにわかってないんです。大掛かりなプロモーションや宣伝もしていないのに……。ただ興味ある人が、ただただ増えていく状況に常にびっくりしてる。謎です」

――「ただ興味ある人が、ただただ増えていく」のならば、本当に着実に広まっていったということだと思うので、反対に安心していいのでは。

kikato「じゃあ、〈ありがとうございます〉って書いておいてください(笑)」

dagaki「ヴィジュアル系のスタイルはとっているけど、歌詞はふざけていますし、人によっては受け入れてくれないだろう、むしろ受け入れてくれる人の方が少ないんじゃないかという不安も強かったんですけど、思ったよりいい反応をもらえたり、先輩が声をかけてくれることが続いたり。音楽に関しては本当に全員真面目なので、それが純粋に伝わったのかな」

tink「元々ソロもやっていたし、〈歌詞が変〉というのは作風というか、変えられないというか、正直これしかできないんです。だから歌詞の内容を変えるつもりはなかったんですけど、たとえばMVの世界観や曲がかっこいいとか、意外と真正面から聴いてくれてるんだという驚きがあって」

――「これしかできない」とおっしゃいますけど、世界観の統一感ってヴィジュアル系において重要とされる要素のひとつだと思うんです。歌詞世界の一貫性があるからこそ、かっこいい曲やMVの世界観も生きるのかなと。それがたとえ〈ジジィ〉や〈ババァ〉、あるいは〈両津〉、〈カインズホーム〉だったとしても。

tink「これまで、ちょっと奇をてらったことをやると、〈またまたー〉みたいな斜に構えた見方をされちゃうことも少なくなかったんですけど、ヴィジュアル系で作品を出すと、好きだったら好き、嫌いだったら嫌いって、正面からちゃんと評価してもらえるところが嬉しくて。懐が深くて優しい世界だなと」

misuji「ヴィジュアル系を通ってない自分でも名前を知っているバンドの人たち、たとえばBugLugの燕さんや己龍の一色日和さんとも気がついたら飲みにいくようになったりとか、対等に接してもらえるようになって……」

tacato.「僕はヴィジュアル系が好きだし、過去にヴィジュアル系バンドをやっていたこともあるんです。ヴィジュアル系って、手間もかかるし、(他のジャンルに比べても)色々なことをやっている。それって好きじゃないとできないじゃないですか。そういうシーンの先輩や同世代の人が真っ当に見てくれるのは、自分たちの〈好きだから〉が伝わっている気がして、雲の上のような存在だった人たちとも音で繋がれるんだなって。すごく嬉しいです」

――お話を伺っていると、皆さんの楽しさや嬉しさが伝わってきます。いい意味でのアマチュア性というか、文化祭的な感覚のまま、クオリティの高いことをやっているというか。このまま楽しくやってほしいと思います。

tink「まだまだ、やってないことややりたい曲がいっぱいありますからね」

 


RELEASE INFORMATION

色々な十字架 『1年生や2年生の挨拶』 元気で笑顔が輝くレコード(2024)

リリース日:2024年11月13日(水)
配信リンク:https://ultravybe.lnk.to/1nenseiya2nenseinoaisatsu

■初回限定盤

品番:GEKR-1003
価格:5,500円(税込)
CD本体(歌詞カード付属)+特殊スリーブケース仕様+24ページ写真集ブックレット+メンバービジュアルカード(6種よりランダム封入)

■通常盤
品番:GEKR-1004
価格:3,300円(税込)
CD本体(歌詞カード付属)のみ

TRACKLIST
1. 繋がれた脳と線路という名の檻と赤
2. スワロウテイル
3. 耽美ヶ原小学校 校歌
4. 知識
5. ごぼう
6. GTO
7. LOST CHILD
8. かなり耽美(決定)
9. 汗拭きシートで冬来けり
10. 第13セクターの子供達へ
11. Highway to Tomorrow~ダイナミックおもらし~

 

■色々な十字架 info
https://lit.link/kanaritanbi