2020年代のアクチュアリティを吹き込んだ待望のショパン・アルバム第3弾

 新型コロナウイルスの影響で1年延期となっていた第18回ショパン国際コンクールの予備予選がワルシャワで始まり話題となっている。前回大会の優勝者チョ・ソンジンはこの6年間、〈消費されるヴィルトゥオーソ〉などには決してならずに、誠実にピアノと向き合い、自らの音楽家としての道を一歩一歩着実に歩んできた。レコーディングでもピアニストにとって鍵となる作曲家に幅広く取り組み、豊かなディスコグラフィーを築いている。筆者がとりわけ感激したのは、マティアス・ゲルネとのドイツ後期ロマン派歌曲集だ。録音のみならず、実際に会場へ足を運んで聴いたのだが、ワーグナーやシュトラウスの歌曲をバリトンとピアノで演奏するというチャレンジに全身全霊で挑み、オーケストラの代替などではない唯一無二の響きを作り出しているのを目の当たりにして、チョ・ソンジンの天賦の才に圧倒された。

チョ・ソンジン, GIANANDREA NOSEDA, LONDON SYMPHONY ORCHESTRA 『ショパン:ピアノ協奏曲第2番、スケルツォ』 Deutsche Grammophon/ユニバーサル(2021)

 チョ・ソンジンは、ショパン国際コンクールの優勝者でありながらショパンには慎重だ。今回のピアノ協奏曲第2番とスケルツォは、協奏曲第1番にバラード4曲をカップリングしたアルバムから約5年を経てのレコーディングとなる。 協奏曲で共演するのは、第1番に引き続いてジャナンドレア・ノセダとロンドン交響楽団。協奏曲もスケルツォも、チョ・ソンジンの演奏は速めのテンポで軽やかに、広がりを持って進んでいく。何より魅力的なのは、無数の硝子玉が光を浴びて色を変えながら転がっていくかのような音色であり、前述のゲルネとの共同作業やドビュッシーのレコーディングといった音楽的体験を経てのショパンなのだと思わせる。とりわけ疾走感に満ちて、清涼感すらあるスケルツォ第3番、第4番は印象的だ。若きショパンの恋の歌として知られる協奏曲第2番のラルゲットでもルバートを極力避け、都会的で洗練された演奏を聴かせてくれる。ショパンの名曲に2020年代のアクチュアリティを吹き込んだ注目盤である。