意気盛んなヴェテランの、いぶし銀の職人技
2014年にドイツ、ケルンの名門ビッグ・バンド、WDRの首席指揮者に就任したボブ・ミンツァー(テナー・サックス/EWI)は、これまで、ニューヨーク・ヴォイセス、イエロージャケッツ、スナーキー・パピーのビル・ロウランス(キーボード)、デイヴ・ストライカー(ギター)をゲストに迎えてアルバムを制作してきた。任期中に、必ず首席指揮者のオリジナル作品を発表するという慣習に基づき、ミンツァーが、作編曲、メイン・ソリストを務めて録音されたのが、本作だ。
ボブ・ミンツアーは、ビッグ・バンド・アレンジの正式な教育を受けたことはないという。若き日に、バディ・リッチ(ドラムス)・ビッグ・バンド、サド・ジョーンズ(トランペット)=メル・ルイス(ドラムス) ・オーケストラで研鑽を積み、ジャコ・パストリアス(エレクトリック・ベース)のワード・オブ・マウス・ビッグ・バンドのアレンジで注目を集めた。1983年には自己のビッグ・バンドも結成し、コンテンポラリー・ビッグ・バンド・シーンを長年に渡ってリードしている。
このアルバムは、書き下ろしの新曲が大半をしめ、ミンツァーのEWIとブラス・セクションの見事な融合が随所に聴かれる。ミンツァーは、70、80年代にティト・プエンテ(パーカッション)や、エディ・パルミエリ(ピアノ)のグループに参加しており、ニューヨーク・ラテン・ミュージックの香り漂う曲も、プレイしている。“One Music”は、1991年に参加したイエロージャケッツのメンバーを中心とした、ミンツァーのリーダー作からのタイトル・チューンで、豪快なスウィング・チューンへと変貌した。エンディングの“VM”は、ミンツァーとWDRの首席指揮者の椅子をシェアするヴィンス・メンドーサ(アレンジ/指揮)へのオマージュだ。「ヴィンスのスタイル、アイデアを私なりに消化して、再構築した作品」とミンツァーは語る。
挾間美帆(アレンジ/指揮)ら、若手の台頭が注目されるビッグ・バンド・シーンの中で、意気盛んなヴェテランのいぶし銀の職人技が光るアルバムである。