©FABRICE BOURGELLE

 ロンドンに居を構えながらブレインフィーダーから発表した2018年のファースト・アルバム『Family Portrait』で、新世代のダンス・ミュージック・シーンを牽引する存在として一躍脚光を浴びたロス・フロム・フレンズ。父親がイベント・オーガナイザーを務めていたという、まさに〈レイヴ生まれハイエナジー育ち〉を地で行く才能は、とてつもない変動が世界中で巻き起こるなか、新たな作品を完成させた。

 「毎週のようにやっていたパフォーマンスがまったくのゼロになったし、生活がここまで変わるとやっぱり大変だね。そんな状況でもできることをやって、気を紛らせないといけないと思ったんだ」。

ROSS FROM FRIENDS 『Tread』 Brainfeeder/BEAT(2021)

 3年ぶりの新作となった『Tread』を制作するにあたり、彼がまず着手したのはレコーディングのためのプラグイン〈Thresho〉の開発だったという。

 「ハードウェアや楽器をレコーディングするとき、制作プロセスがスムースに進まなくてうんざりしていたんだ。録音を開始して、止めて、保存して、分類するってことの繰り返しだからね。それで、自分でソフトを作ってみようと思ったんだ」。

 アルバム・タイトルが表す〈跡〉や〈足跡〉にはいくつかの意味が込められている。

 「『Tread』というのは僕の記憶に刻まれた経験、タイムラインを踏み歩いて残る〈足跡〉のことなんだ。特にここ10年、ロンドンで暮らしている間に聴いていたフューチャー・ガラージ、ポスト・ダブステップ、ローファイ、90~00年代の音楽の要素もたくさん採り入れている。そして、この名前は〈Thresho〉にも関係していて、スタジオで再生したあらゆる〈跡〉を記憶していく様子を指してもいるんだ」。

 冒頭のUKガラージ/2ステップ曲“The Daisy”を筆頭にビートのヴァリエーションは豊かになり、シンセの音色や鳴らし方、サンプル、楽曲構成など、90年代レイヴ・カルチャーの影響が色濃い作風には磨きがかかった。ロックダウンの間、スタジオと自宅という決められた区域に閉じ込められたことで、自分の人生を思い起こし、パーティーや友人、曲作りをした家など、彼を取り巻くさまざまな要因が本作に影響を与えたという。

 「ここ数年はイビザ・クラシックスにハマっていて、曲の構造やBPMが心に響いていたんだ。長いブレイクダウンやインパクトの強いドロップとかね。あと、90年代のダンス・ミュージックそのものより、それらに影響を受けた音楽のほうが僕には馴染み深いな。2010年代前半のイギリスで起きたリヴァヴァル・ムーヴメントだね。僕がロンドンに移り住んで、クラブなんかに通うようになった時期のことだよ」。

 一方で、ソウルフルなサンプルによるジャム・セッションのような“A Brand New Start”は、短いながらも、まるでJ・ディラやマッドリブといったビートメイカーの仕事を再解釈したように思えて興味深い。

 「マッドリブが、とあるインタビューで〈必要なのはサンプルだけで、それだけでトラック全体が完成することもある〉って語っていてね。その生々しいアプローチにすごく惹かれて、いつかそのオマージュをやりたいと思っていたんだ。だからこの曲はサンプルをただモジュラー・シンセに通して、少しだけ即興を入れて、そのなかの2~3分を切り出したもので、今回いちばん短期間で作った曲だよ。“XXX Olympiad”もそうだけど、アルバム全体で60~70年代のソウル・サンプルを多用しているんだ」。

 さらにアルバム終盤では、これまでの作風を一変した楽曲も登場する。

 「“Run”は新しいことに挑戦できた曲だと思う。ダンス・トラックにするのは簡単だけど、違う方向に向かいたがっている気がしたからメロディーに行き先を任せて、ちゃんと息をするように、プロダクションをやり過ぎないようにしたんだ」。

 今年1月には自身のレーベル=スカーレット・タイガーをローンチし、シングル“Burner”を発表。みずからの作品以外にも新たなリリースが控えている。

 「友人やオンラインで知り合った人たちと長年やり取りしていろんな音楽を蓄積してきたから、それらのリリースのためにレーベルを立ち上げるのは、ごく自然なこと。絶対に続けていきたいと思っているよ」。  

 


ロス・フロム・フレンズ
本名フェリックス・クラリー・ウェザオール。93年生まれ、英国コルチェスター出身のDJ/クリエイター。両親の影響もあってレイヴ・カルチャーや多様なダンス・ミュージックに親しんで育つ。2013年に最初のEP『David Crane’s Amazing Tennis』を発表して以降、いくつかのレーベルからコンスタントに楽曲をリリース。2018年にブレインフィーダーからファースト・アルバム『Family Portrait』をリリースして高い評価を浴びる。サンダーキャットやジミー・エドガー、フルームらのリミックスも手掛け、2019年にはEP『Epiphany』を発表。今年に入って“The Daisy”“Love Divide”の先行カットを経て、このたびセカンド・アルバム『Tread』(Brainfeeder/BEAT)をリリースしたばかり。