(左から)Nari、DJ No Guarantee、Licaxxx。写真はKotsu
 

ロス・フロム・フレンズの3年ぶりのセカンドアルバム『Tread』、その内容はエレクトロニックミュージックのアーティストとして、表現力を大きく増したことを強く感じさせる作品となった。昨今のUK系のダンスミュージックのトレンドでもあるUKガラージ的なグルーヴが躍動する前半、そしてアンビエントな後半と、ふたつの〈色〉を基調にしつつも、トランス~プログレッシブハウス的な要素、そしてダウンテンポやブレイクビーツなどを使い分けながら淡いグラデーションでその両端を結んでいる。

2010年代後半のUKにおける新たなハウスの旗手が、あっと驚くフライング・ロータスのブレインフィーダーからのリリースを取り付けて3年。現場もリリースも含めて、多くのことを経験したことが如実に伝わってくるタイプの音、ということでもある。

本稿ではそんな彼のアーティストとしての全体像、そして本作に迫るべく、この国のシーンで彼らが生み出すサウンドに呼応する、4人のDJたちに集まってもらった。Licaxxx、そしてDJコレクティブのCYKからはNari、Kotsu(当日は京都からリモート参加)、DJ No Guaranteeの3人。ちなみにCYKは前回のロス・フロム・フレンズの来日公演でホストも務めている。

ロス・フロム・フレンズの名前を広げたのはやはりダンスミュージックのアクトとしての性格によるところが非常に大きいことは間違いない。そこには、12インチレベル、現場レベルで見えてくるクラブカルチャーらしい背景がある。コロナ禍を経て、いままた盛り上がりつつあるクラブカルチャーという刺激的な音楽の現場から見た、ロス・フロム・フレンズとはいかに? 4人に話を訊いた。

ROSS FROM FRIENDS 『Tread』 Brainfeeder/BEAT(2021)

偉大なロブスター・テルミン

──まずはロス・フロム・フレンズを最初に認識したのは?

Licaxxx「ロブスター・テルミン(Lobster Theremin)※1(記事末参照)からの12インチ『Don’t Sleep, There Are Snakes』(2017年)だよね。当時ロウハウス※2と呼ばれる音楽が流行ってた頃にリリースされて、それをDJでかけはじめたのが最初」

2017年のEP『Don't Sleep, There Are Snakes』収録曲“In An Emergency”
 

Nari「その頃ロブスターから出てくるアーティストは無名かつ変な名前の人が多かったから、そのひとりという認識だったかな」

DJ No Guarantee(以下、DNG)「セインフェルド(DJ Seinfeld)とか、ボウリング(DJ Boring)とか、あくまでもあのラインのうちのひとりという」

──ロブスターは、2010年代中頃のUKのローファイハウスを代表するレーベルという感じですが、とはいえその音源は、USのL.I.E.S.が出していたようなゴリゴリのインダストリアル~アシッドなロウハウスとはちょっと違っていますよね。UKではもう少しディープハウスっぽい柔らかい流れがあり、そこにUKガラージ※3的なグルーヴやベースミュージック的な要素も加わっていく、その代表的なレーベルであり、ディストリビューターでありという印象。

DNG「だいたいその感覚だと思います。あとは、2010年代前半にあったマックス・グリーフ(Max Graef)※4なんかのビートダウン系ディープハウスのリバイバルと呼べるような流れがあって──そちらはもっとちゃんと楽曲として作り込まれていたサウンドでしたけど、ロブスター周辺はその流れも含みつつ、もうちょっとラフな感じの作りのハウス。そこからいまのUKっぽい音に直結しているという感じかな」

2016年にロブスター・テルミンからリリースされたシュープリームスのシングル“Us Together”。ロウハウスの代表曲のひとつ
 

Kotsu「あとはレーベルやアーティストで言えば、ムード・ハット(Mood Hut)とか、プロジェクト・パブロ(Project Pablo)周辺のディープハウス色の強いアーティストにつながる。プロジェクト・パブロを出している1080pとかのカセットレーベルもそういう流れで買ってたかな」

Nari「ムード・ハットのジャック・J(Jack J)とかね。あとシャル・ノット・フェイド(Shall Not Fade)※5というレーベルの存在は大きいと思いますね。それはリリースする作品もそうだけど、もっと現場に近いところで重要で。彼らがやっていたパーティーのストリーミングで、例えば〈DJボーリングはこういうDJをするんだ〉とか。作品ももちろんだけど、そうやってDJとしての存在を伝えてくれたという感じがして」

DNG「でも、世代的な体験でもあるかもね。僕らが12インチを買ってちゃんとDJをやり出した頃と、そのあたりのレーベルが出てきたのが同じ時期なんだと思う。ロブスター・テルミン周辺の音源って一聴しただけでは作りはラフだけど、そのマナー自体はDJとして使いやすい」

Licaxxx「それはそう。いまやどんどんリリースの幅も広がってるし、サブレーベルとかからのタイトルで、ロブスターのものとは知らずに手元に、というのはDJをやっているとあると思う」

Nari「たぶんいまの、ハウスとか四つ打ちが中心の20代のDJで、ロブスターの関連レコードを1枚も持っていないDJはいないんじゃないかな」