(左から)明神ナオ、小林ファンキ風格、阿久津信也、田中裕一
 

2017年に結成された4人組バンド、PARIS on the City!。これまで60年代モータウン的なサウンドを軸としながら活動してきた彼らはしかし、2021年11月17日リリースのニューアルバム『擦り切れても骨になるまで』において、熱く疾走感溢れるロックンロールサウンドへと大きく舵を切った。だがその一方で、サウンドがいくら変わろうともブレないバンドとしての美学もまた、今作からはひしひしと感じられる。

そんな〈変わっていくことの魅力〉と〈変わらずにいることの魅力〉が同時に刻まれた新作『擦り切れても骨になるまで』をめぐって、4人にインタビューを行った。彼らが実直に紡ぐ言葉の一つ一つは、〈バンドっていいな〉と改めて実感させてくれるだろう。

PARIS on the City! 『擦り切れても骨になるまで』 Waikiki(2021)

 

松任谷由実、モータウン、TOTO……PARISを作った音楽たち

――まずはみなさんがこれまでどんな音楽を聴いてきたか、教えていただけますか。

明神ナオ(ボーカル/ギター)「僕は小学校1年生くらいのときに長渕剛にハマって、そこからアコギを中心とした音楽性のミュージシャン、たとえばゆずとかを自分でもギターで練習するようになりました。歌謡曲もよく練習してました。

他には親が松任谷由実を好きで、ずっと家の中で流れてました。歌詞であまり答えをはっきり言わないようなところは、もしかしたら影響を受けてるかもしれないです。中高では松任谷由実さんが昔のR&Bから影響を受けているというのを知って、自分もそのあたりの音楽にどっぷりハマりました。スティーヴィー・ワンダーとか、他にもいろいろなソウルミュージックをアーティスト名も分かんないまま探ってましたね」

小林ファンキ風格(ギター)「僕は小学生のころからスピッツを死ぬほど聴いてて、邦楽ロックのバンドでは一番影響を受けていると思います。

その後大学で、ソウルとかR&B、ファンクをやるサークルに入って、洋楽を聴くようになりました。タワー・オブ・パワーとかインコグニート、あとはモータウン系のアーティストですね。スティーヴィー・ワンダーとかマーヴィン・ゲイあたりをコピーしてました。それを経て、ブラックミュージックから影響を受けているアイドルポップスなんかも聴くようになっていきました。ハロプロ系とか東京女子流*とか」

――スピッツからブラックミュージックまでってわりと距離があると思うんですけど、そのサークルに入ったきっかけは何だったんですか?

小林「他のサークルにはギターの上手い先輩がいっぱいいたので、そっちに入ってもすぐにライブに出られなかったんですよね。僕は、1年からでも活躍できるところに入りたかった。それでたまたまそのサークルがギタリストを募集していたので、入りました。

入ってすぐにMISIAの音源を渡されたんですが、最初全然弾けなくて。〈メジャー7thって何だ?〉みたいな(笑)。そこからソウルやファンクをたくさん聴いて修行しました」

――結果的にそれがいまの活動の礎になっていますね。

小林「そのサークルに入ってなかったら、PARISもやってなかったかもしれないですね」

――リズム隊のお二人はいかがですか?

阿久津信也(ドラムス)「兄貴の影響でドラムを始めたんですけど、大きかったのは社会人になって同じ会社で働いているドラム経験者にTOTOを聴かされたことですかね。〈このドラムすごいでしょ〉って言われたんですけど、最初全然わかんなくて。当時は派手さとか、そういう観点でしかドラムを聴いてなかったんで、普通にビートを叩いてるだけに聴こえるTOTO(のドラマー、ジェフ・ポーカロ)のどこがすごいのかわからなかった。そこから初めてブラックミュージック的なものを意識するようになったんです」

田中裕一(ベース)「僕にとっては、ボビー・ブラウンの“Roni”が入ったアルバム(88年作『Don’t Be Cruel』)の存在が大きかったです。父親の持っていたCDを借りて初めて聴いたとき、衝撃が走りました。それをきっかけにボーイズIIメンのアルバムを買ったりして、いよいよブラックミュージックにハマっていきました。そこから派生して東京事変を知って、だんだんと日本の音楽にも触れていくようになるんですが、根っこにあるのはやはりブラックミュージックだと思います」

――それぞれのルーツを全員ですり合わせたりはするんでしょうか。

小林「まさにいまやってることだよね」

田中「そうだね。結成当初は余裕がなかったから、そういうことはやってなかったよね。自分のことだけしか頭になかった」

――今作を作るにあたっても、イメージの共有などはしました?

小林「結構意識しましたね。たとえば“林檎79号線”なんかには、それが顕著にあらわれていると思います。

この曲に関しては、明神さんの作ったデモを最初に聴いたとき〈アシッドジャズっぽいな〉と感じたんです。そこから具体的に〈こういうグルーヴが気持ちいいよね〉というイメージをみんなにシェアして、コードとかもアレンジをしていったんで、結果としてアシッドジャズ的な文脈でも語れるような曲になってると思います」

『擦り切れても骨になるまで』収録曲“林檎79号線”

 

〈泥臭さ〉を武器に戦っていきたい

――その一方で今作は全体的に見ると、熱いロックンロール的なサウンドの曲が多い印象です。PARIS on the City!がもともと〈60年代モータウン的サウンド〉というのを掲げていたことを踏まえると、これは結構大きな変化かと思うんですが、意識的にそういう方向へ舵を切ったのでしょうか。

明神「自分はゼロから曲を作る段階では、あまりサウンドの方向性とかを考えないようにしています。というのも、なるべく本能的に曲を書きたくて。その分、今作ではいままでの作品以上に4人でアレンジをちゃんと考えました。

今回みんなでアレンジを練る過程で〈自分たちの強みって何だろう〉と改めて考えていたとき、技術的に上手くやろうとすることよりも、気持ちをまっすぐ表現することを大事にしていた、結成当初のライブの楽しさを思い出したんですよ。ちょうどツアーが中止になってしまったタイミングだったので、改めてこれからそういう〈泥臭さ〉みたいなものを強みにして、それを武器に戦っていきたいなと思って。それでこういうサウンドになりました」

――具体的にはどういうやり方でアレンジを練っていったんでしょう?

明神「今回はレコーディング前に初めてバンドで合宿をしたんです。そこでがっちり作っていきましたね」

小林「そもそも昨年末くらいに全てのデモが送られてきてて、それを基に宅録して自分のパートをラフに固めていったんです。その状態で合宿に行き、そこでコードアレンジを考えたり、フレーズの細かい部分を変えていって。で、それを持ち帰ってもう一回宅録で色々弾いて、最終合宿をしてレコーディングした、みたいな感じです」

明神「そう言えば、今回は初めてプリプロを作ったんですよ。みんなが送ってくれた演奏を一つにまとめてプリプロを作るんですけど、その後レコーディング本番を経て出来上がってきたものは、それともまた違う。自分の想像してなかった仕上がりなんです。

そのときにしか出せないパフォーマンスによって、またもう一個違う場所に行ける。そういう発見はプリプロを作らなければなかったと思うので、やってよかったです」

 

自分がどう弾くかではなく、曲がいかに良くなるか

――プリプロを用意したというのは一つ挑戦だったかと思いますが、他に何か新しく意識したことってありますか?

小林「僕はいままでギターのことばかり考えていて、曲全体のことを考えてなかったんですけど、今回はコードアレンジを考えることとか、他の楽器のフレーズについて自分がアイデアを出すということができたので、そこはチャレンジできたところかなと。今回は〈曲をよくしたい〉という方に意識が向いてた気がします。

一方でルーツが全員少しずつ違うので、口頭でイメージを伝えるのが難しかったです。〈夜景を感じられるようなBメロにしたい〉みたいに、どうしても抽象的になっちゃうんですよね。なので実際にイメージと近い曲を聴いてもらって〈感覚を上手くシェアできないか〉ということを考えました」

田中「僕もどっちかというと、自分がどう弾きたいかより、曲全体に対して自分がどういう深さをもたらせるかというかっていうところに重きを置いてた気がします。今回は自分のルーツとはちょっと違うギターロック的な曲が多かった、というのもあって。あまり自分主体で考えない感じでしたね」

阿久津「今回はプリプロもあってやること自体は事前に固められたので、自分はもう本番でどれだけ集中してのぞめるかということをひたすら考えていました。失敗が続いたりすると気持ちがナイーブになって、ずるずる行っちゃうので」

――集中力を高める秘訣とかって何かありますか?

阿久津「秘訣かはわからないですけど、レコーディング現場へ行ったときに元気に振る舞うことは意識してましたね。エンジニアの人といかにいい雰囲気でその場を楽しめるか、というところがカギになると思っていて、そのためには結局人とのやりとりが大切だなと、今回改めて思いました」

――それは大事ですね。今作にはオリジナル曲の他に再録曲が“キミはキレイだ”、“スーパースター”と2曲入っていますが、これも一つの挑戦と言えるかもしれませんね。

明神「ちゃんと綺麗な音で録り直したかったんです。前作『この世で一番嫌いな君へ』(2017年)のときはミキシング/マスタリングだけスタジオでやってもらって、録音自体は宅録でやったので。その中でも特に録り直したかったのが、この2曲でした」

阿久津「2曲ともライブでずっとやってた曲だったので、再録にあたってはライブの勢いみたいなものをいかにパッケージするかを考えていたかもしれないです」

『擦り切れても骨になるまで』収録曲“スーパースター”

 

音楽なので歌詞がわかりすぎると面白くない

――〈勢いをパッケージする〉というのは、先ほど明神さんがおっしゃっていた〈泥臭さを強みにしたい〉ということと通ずる気がします。今作からはアルバム全体を通してサウンド・歌詞の両面でそうした美学を感じますが、歌詞の内容から演奏が影響を受けるようなことはありましたか?

小林「たとえば〈ふぁっきゅーせんきゅー〉って聞いたら、やっぱ疾走感のあるロックなんだろうなっていうのはあったかもしれないですね。あるいは〈間違った 間違った 間違った〉って何回も繰り返してるデモとか聴くと、やっぱ激しい方がいいのかな?とか。そういうのは、たしかに感覚としてあったかもしれないです。

一方で勘違いから生まれたフレーズもあります。“四角いブルー”という曲に〈針の音響く〉という歌詞があるんですけど、僕はずっとそれを〈春の音〉と聴き間違えていて(笑)。それで僕らの過去の曲である“春の夜”のイントロのフレーズをそこに持ってきたんです」

『擦り切れても骨になるまで』収録曲“四角いブルー”
 

――それは間違いかもしれませんが、結果的に曲に思わぬ表情を与えている気がします。

田中「阿久津も今回すごい歌詞を気にしてたよね」

阿久津「ドラムの場合は基本デモに合わせて叩くので、自分で〈ここでこう言ってるから、こんな風に叩いてみよう〉みたいに思い切りアレンジすることはあまりないんです。

ただ、いままではデモをもらっていきなりドラムのコピーをしてたんですけど、今回は最初に歌詞をしっかり咀嚼してみることにしたんです。それでわからないことがあったら明神に訊いてみたり。場合によっては〈この流れで行くと、ここの歌詞こうしたほうがもっとわかりやすくなると思うんだけど〉みたいに意見を言うこともありました」

――それで歌詞が変わった曲はありましたか?

阿久津「“四角いブルー”は変わりましたね。当初は、サビのフレーズの最後が1番と2番両方とも〈優しくなれやしない〉だったんですね。でも自分としては〈ここで相手が求めてるのって、もはや優しさとかじゃなくない?〉と思って。それを伝えた結果、2番は〈何も変わりやしない〉と歌う、いまの形になりました」

――明神さんは歌詞についての阿久津さんの意見を聞いて、どんな風に感じました?

明神「たしかにそういう〈伝わりやすさ〉みたいな視点も大事だなと思いました。でも一方で、音楽なので歌詞がわかりすぎちゃうと面白くないところもあるんですよ。あとは〈このメロディーはこの母音でいきたい〉とか〈この音でのばしたい〉とか、その辺の塩梅がやっぱり難しいですね」

――それと繋がるかもしれませんが、明神さんの書く歌詞には独特な言い回しが多いですよね。〈駄作で素敵なヒーローでいて〉とか〈愛の爆心地〉とか。そういう言葉の使い方は、意識していますか?

明神「楽曲全体のストーリーが全部伝わらなくていいから、ひとフレーズでも耳に残ってほしいという思いがあって。たとえば、いかにAメロで何か残るワードを入れるか、みたいなことは考えますね。かつ、ちゃんと音楽として自然に聴こえるようにもしたい。

あとは、ちゃんと感情を含ませられるような言葉選びをするっていうのも意識しているかもしれないです。一つ影響源があるとすれば、ワンダフルボーイズと天才バンドのSundayカミデさんですかね。PARIS on the City!ってバンド名をつけてくれた人で。Sundayさんが歌詞を書いた曲で“君が誰かの彼女になりくさっても”っていうのがあるんですけど、〈なりくさっても〉という言葉には感情がちゃんと入ってますよね。でも解釈は決して一様ではなくて、その言葉を見て想像するものはリスナーそれぞれで変わってくる。それは素晴らしいことだと思います」

 

いまの時代に〈アルバム〉を出すということ

――今作の収録曲で、みなさんの推し曲があれば教えてください。

田中「ベースだけで言うなら“四角いブルー”ですね。アレンジを家ですごい練ったんで。あれは本当に苦労しましたね。PARIS史上一番ベースの音が動く曲なんじゃないかな」

小林「僕はさっき話した“林檎79号線”ですかね。やりたいことができたという感覚があって。PARISの曲で、初めて大好きなワウを使ったりして音作りにこだわったんですよね。それ以外でも、たとえばコードアレンジで、いままでの曲になかった9thみたいなアシッドジャズっぽい要素も取り入れられたし。PARISのよさもありつつ、自分の好きな感じも出せたということで気に入っています」

明神「僕は1曲選ぶのは難しいですね……。ただアルバム全体を通してなんですけど、暑苦しいなと思いますね(笑)。その感じが聴く人に届けば嬉しいです」

――最近は配信で曲の単位で聴く方がどんどん増えてると思うんですけど、そんな中でCDとしてアルバムをリリースすることに対して、みなさんどんな思いがありますか?

小林「若いリスナーの方々と話してると〈アルバムっていう概念があんまりない〉と言うので、結構びっくりするんですよね。昔の洋楽のアルバムとかにはしっかりしたライナーノーツが入っていて、それを自分で読みながら聴くという楽しさがあったじゃないですか。そういう原体験が自分の中であったので、今回もやっぱりCDアルバムをちゃんと出したいっていうのは気持ちとしてありましたね」

明神「2020年の3月に『れあもの』というミニアルバムを出して、それ以降に作った曲を今回入れてるんですけど、2020年の4月から現在までに僕らがやってきたことを、記録としてちゃんと形に残したいっていう思いがありました。そのためにはやっぱりモノとして残るものにしたかったので、CDアルバムにしたんです」

田中「あとやっぱりアルバムだから映える曲というのがあるんですよね。ここでそういうアルバムならではの曲が来るからこそ、次の曲がすごい映える……みたいな曲順の妙を、アルバムで感じてもらえたらと思いますね」

『擦り切れても骨になるまで』収録曲“骨になるまで”

 

自分とみんなの掛け算がもたらすバンドならではのカッコよさ

――今作にはバンドっていうものの魅力が詰まっていると思うんですが、みなさんは〈バンドとして活動することの意義〉をどういう風にお考えでしょうか。

小林「それは本当にコロナ禍においてよく考えたことで。他のメンバーが上手くなっていって、自分も上手くなっていくことで、前よりも曲が良くなる。そういう掛け算みたいなものって、やっぱりバンドならではだなと思います。毎回ライブが終わって音源を聴き返してるときに〈あ、カッコいいな〉と感じられるんですよね。そういう感覚は、コロナ禍とか大変なことがある中でも〈やっぱり俺はバンドやりたい〉っていう気持ちにさせてくれました」

明神「自分は、全部弾かなくていいっていうことかな……」

一同「(笑)」

明神「でも真面目な話、このメンバーだと安心して任せられるんですよね。みんなのグルーヴの上だからこそ、気持ちよく歌を乗せられるんです」

田中「人間と人間が反応し合いながら感情を乗せて出す音って、一人で何かに合わせて練習してるときの音とは全然違いますよね。生ライブの醍醐味とか、人間と人間で演奏する醍醐味っていうのは、やっぱりそこにあると思います」

――そしてアルバムリリースに合わせて、ライブツアーが行われます。どんなライブにしたいですか?

明神「去年のツアーが一回中止になってるんで、その分の感情も一緒に吐き出せたらいいですね。思い切り、音で爆発させられればいいなって。自分たちとしても、希望を感じられる日にしたいです」

阿久津「テーマは〈挑戦〉ですね。ワンマンだけど、まだ俺らのことを知らない人にどこまで印象を残せるかっていうのを考えています。もちろん応援してくれてる人にも感謝なんだけど、本当に挑戦者として〈見とけよクソ野郎!〉ぐらいの気持ちでいます。……あのこれ、みんなと共有したかったんで強く言ってます(笑)」

一同「(笑)」

 


LIVE INFORMATION
あの夜僕らは一瞬で皮膚の細胞まで一つになった東名阪ツアー
2021年12月8日(水)愛知・名古屋 CLUB UPSET
出演:PARIS on the City!/Ezoshika Gourmet Club/GOOD BYE APRIL
2021年12月9日(木)大阪・心斎橋 MUSE
共演:PARIS on the City!/PURPLE HUMPTY/夜の最前線/帝国喫茶
2021年12月17日(金)東京・新代田 FEVER ※ワンマンライブ
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