いまUKやアイルランドのインディーロック/ポストパンクシーンが盛り上がっていることは、周知の事実だと思う。今年はブラック・ミディとゴート・ガールがそれぞれ挑戦的なセカンドアルバムをリリースし、さらにドライ・クリーニング、スクイッド、ブラック・カントリー・ニュー・ロードが鮮やかなデビューアルバムを携えて登場した。個性的なバンドが次々と現れ、ひとつの大きなうねりになっていることはあきらかだ。

一方、アメリカ。ブリテン諸島のシーンからは、隔絶しているように思える。しかし、そんななかでNYCのブルックリンから、その潮流に呼応する若き5人組が現れた。ヒリついたロックサウンドが詰めこまれた記念すべきファーストアルバム『Projector』を聴けば、その意味はわかってもらえるだろう。事実、ミキシングはサウスロンドンシーンの要人であるダン・キャリー(Dan Carey)が腕によりをかけて行っている。しかも、『Projector』をリリースするレーベルは、フォンテインズ・D.C.やチャビー・アンド・ザ・ギャングなどを送り出してきたパルチザン(Partisan)だ。

まだ18歳か19歳の彼らは、ほんの1年前にはほとんど無名だった。突如としてシーンの最前衛に繰り出した彼らのキャリアについて、詳しくはCDに付された解説(このインタビューと連動している)を参照してほしいが、とはいえ、自由で鮮烈な『Projector』を聴けば、バックストーリーなんて不要かもしれない。むしろ、彼らは、これから自分たちのストーリーを、あるいはムーブメントを作っていくのだろう。

ギースのメンバーのうち、今回Zoomでインタビューできたのは、ギタリストのガス・グリーン(Gus Green)、ドラマーのマックス・バッサン(Max Bassin)、そして作曲と作詞を担うボーカリストのキャメロン・ウィンター(Cameron Winter)の3人だ。どこか陰りを帯びた面持ちで口数の少ないキャメロンと、やんちゃでノリがいいガスとマックスは、瑞々しい感性でバンドについて、アルバムについて、さらにギターロックの未来について語ってくれた。

GEESE 『Projector』 Partisan/Play It Again Sam(2021)

 

うちらみたいなのは相当レア

――取材するにあたって海外のインタビューをいろいろと読んでいて、みなさん5人はバラバラな個性の集まりだと感じたんですね。そこで、バンドとして共有しているものをあえて挙げるとすれば、なんでしょうか?

ガス・グリーン「このバンドを始める前から友だちだったのがそもそものベースにありつつ、普通に遊んでる流れで一緒に音楽を作るようになったっていうことなんだよね」

――でも、共通する音楽の好みもあったわけですよね?

ガス「もちろん。きっかけで言うと、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードとかかな。高校1年生くらいのときの話だね。あとは、プログレ系バンド全般とか。そこらへんがきっかけで、お互いに好きなバンドのアルバムを紹介しあうところから自然に始まった感じ」

キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードの2021年作『Butterfly 3000』収録曲“Catching Smoke”

キャメロン・ウィンター「クラシックロックというか、ロックンロールの王道中の王道系の作品を聴き漁ってたよね。レッド・ツェッペリンとか、ピンク・フロイドとかのあたり。ちょうどそのへんの音楽にどハマりして、開拓してる時期で」

ガス「この2人(ガスとキャメロン)は、バンドのなかでも特にクラシックロック寄りだよね。でも、たしかに、ピンク・フロイドはうちのバンドにとっていちばんデカい存在のひとつだね」

マックス・バッサン「そうだ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドも」

ガス「あっ、そうだ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドだよ! ちょうどこないだみんなで集まってドキュメンタリー(Apple TV+『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』)を観たんだけど、マジで最高だった! あと、ビッグ・スターとか」

2021年の映画「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」トレイラー

ガス「ビッグ・スターはマジで最高」

マックス「60年代後半の音楽がめっちゃ好きで。基本、60年代後半から90年代にかけての音楽が好きなんだよね。トッド・ラングレンとかも好き」

――それって、アメリカの高校生が普通に聴いている音楽なんですか?

マックス「いや、それはない(笑)。みんなラップとかポップミュージック一色だから」

ガス「うちらみたいなのは相当レアだよね」

マックス「ラップやポップミュージックも一通り聴いてはいるけどね。自分たちのほうがセンスあるとか音楽について詳しいとかじゃないけど、知らない音楽を開拓してやろうっていう好奇心が人一倍強かったってのはあるかも」

――クラシックロックのどういうところに惹かれたんでしょう?

マックス「たぶん、きっかけは両親が聴いてたからとかじゃないかな。両親が好きだった流れで、僕も子どもの頃からビートルズの大ファンだったんだよね」

ガス「わかるわ。それがまさに僕たちにデフォとして染みついてるんだろうね。そもそも音楽っていうのはそういうもので、〈これ、聴いてていい感じだわ~〉っていうのが原体験としてあるわけで。実際、〈いい音楽〉って言葉を聞いて最初に思い浮かべるのは、あのへんの時代の音楽だったりレコードだったりするんだよね」

マックス「うん。子どもの頃に聴いてた音楽がベースがあるから、いまの自分の音楽の聴き方があるなって思うこともあるし。最近の音楽を聴いてても、〈こういうところから影響を受けてるんだ〉って関連性が見えるから、余計にあの時代の音楽ってマジですごいよなって思わせられるね」