カメラマン/音楽ライターとしてロックヒストリーにその名を残すクボケンこと久保憲司さんの連載〈クボケンの配信動画 千夜一夜〉。Netflixなど動画配信サービスが普及した現在、寝る間を惜しんで映画やドラマを楽しんでいるというクボケンさんが、オススメ作品を解説してくれます。

今回採り上げるのは、伝説的なロックバンドのレガシーに迫るApple TV+オリジナルドキュメンタリー「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」。貴重なアーカイヴ映像や独占インタビューを織り交ぜながら、彼らの軌跡と世界に与えた衝撃を検証していきます。「エデンより彼方に」や「キャロル」などで知られるトッド・ヘインズが監督を務めたことも話題の本作で、クボケンさんはヴェルヴェッツのかっこよさを再確認したそう。 なぜ、彼らは今なお特別な存在なのでしょう? *Mikiki編集部

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画像提供 Apple TV+
 

完璧に美しいバンド

昔、スロッピング・グリッスル/サイキックTVのジェネシス・P・オリッジの家に行ったとき、レコードも何もない普通の家でびっくりしたのですが(あの有名な白いヘビはいましたけど)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードだけは全部揃っていて、かっこいいなと思った久保憲司です。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのドキュメンタリーを放送するというのが、ボブ・ディランのレコードだけをコレクションしていたスティーヴ・ジョブズの流れを組むApple TVらしくっていいなと思いました。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドというのはそういうバンドなのです。アートなのです。それがよくわかるドキュメンタリーでした。

スティーヴ・ジョブズがこだわったAppleのデザインのように、完璧に美しいバンドなのです。まさに〈シャイニー、シャイニー、シャイニー・ブーツ・オブ・レザー(光輝いた皮のブーツ)〉とヴェルヴェッツの歌の通りです。

とにかくかっこいい、16ミリで撮った映像が美しすぎるのです。

 

画像提供 Apple TV+
 

売れなくたっていい、永遠に語り継がれるバンドになれればいい

しかし、なんで今みんなヴェルヴェット・アンダーグラウンドをしないのですかね。

どうやるかといいますと、まず毎日どんちゃん騒ぎをしても怒られないアートスペースを借ります。そこに毎日かっこいい人たちが遊びに来るようにする。そして、みんなで映画を撮ったり、アートを作ったりする。そんなシーンの専属バンドを作る。月に100万円くらいあったらできると思うのですけどね。年間1,200万円、3年間3,600万円、誰か投資しないですかね。今だとオンラインサロンですかね。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいなかっこいいバンド、絶対できると思うんですけどね。売れないと思いますが、売れなくたっていいのです。かっこよければいい。そして、彼らみたいに永遠に語り継がれるバンドになれればいいのです。

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アンディ・ウォーホルが作品をバンバン作って彼らを支えたわけです。それでこうやってこんなにかっこいいことができたわけです。

アンディもそうすることで自分の作品を売りやすくなると思っていたんでしょうけどね。上流階級の人間は退屈しているから、退廃をやってれば、彼らは覗きにくるだろう、そして、覗きに来たときに作品を売ったり、肖像画を作ったりして高値で買わせたらいいと思ってたのです。

こういうことを発展させて最終的にはディスコを作ればいいと思っていたのにはびっくりしました。アンディはそこまでうまくコントロールできなかったけど、でもそのアイデアをパクって大金持ちになったのがスタジオ54のオーナーです。アンディは、本当は映画も当てたかったんだけど、当たらなかった。そんなもんです。本当におもしろいことをやっている人は儲からないんです。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドもそうです。現代音楽とロックンロールを合体させたら、最高の音楽になるだろうと、その通りになったんですけど、売れなかった。でも、その斬新さと過激さはデヴィッド・ボウイの〈ジギー・スターダスト〉とパンクの原型となったのです。

 

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求めたのは自由

でもこれだけでは語れない彼らの秘密がこの作品を観てたら分かります。

彼らはアンデイの作品、生きた作品です。宇川(直宏)くんがやっているDOMMUNEと一緒ですね。DOMMUNEは宇川くんの生きた作品です。

でも彼らは生きた作品だからアンディの思う通りにはならなかった。それもかっこいいところなんですけどね。

彼らが求めたのは自由さ。

ブライアン・イーノは「彼らのレコードは5,000枚しか売れなかったけど、買った人間は全員バンドを始めた」と言った。イギー・ポップ、ジョナサン・リッチマンなどみんなヴェルヴェット・アンダーグラウンド・チルドレンです。

その音楽はとても簡単そうだけど、実は複雑なことをやっている。ギターのチューニングを全部同じにしたり(これがルー・リードの有名なオーストリッチチューニング)、ギターの音をデチューンしたり(二つの音のチューニングをちょっとずらす、シンセサイザーでは当たり前の方法なんですけど)。彼らがめざしたのは倍音(ナチュラルハーモニクス)が生むゾクゾクする響き、その音楽に負けないルー・リードのリアルな詩。こうした音楽はファーストとセカンドで極められ、3枚目と4枚目ではオーソドックスな音楽をやろうとした。それでも彼らの偉大さは変わらない。

本当、このドキュメタリーをお手本に、アンディ・ウォーホルとヴェルヴェット・アンダーグラウンドがやったことをもう一回やらないですかね、それをやることもまたアートだと思うんですけどね。本当に誰かやったらいいのに。