迫り来るピンクの球体に押し潰されるおっさん。というのは、アイドルズの前作『Ultra Mono』のジャケ写のことであるが、彼らの音楽が持つインパクトを見事に表したアートワークだった。暴力的でパンキッシュなサウンドを塊として叩きつけるが、歌詞には自分たちが抱える問題の率直な吐露も含まれている、そんなバンドの特徴がユーモアと共に上手く視覚化されていた。

IDLES 『CRAWLER』 Partisan/BIG NOTHING(2021)

 新作『CRAWLER』のジャケットは暖色系の光が灯るいい感じの家の側面に、ひとり宇宙飛行士が閉じ込められている、というこれまたシュールなもの。サウンド的には前作から色合いが少し変わっている。

 振動する電子音と、気怠いヴォーカルが徐々にテンションを高めていく1曲目の“MTT 420 RR”に始まり、2曲目の“The Wheel”、5曲目の“The New Sensation”などは張り詰めたテンションで直進していくアイドルズ節であるが、全体的にはよりダークでミニマルな(時にはゴスっぽい)アレンジが目立ち、彼らが一段階違うステージへと登ったことを感じさせる。

 そうした収録曲の中で特に耳を惹くのが7曲目の“The Beachland Ballroom”だ。珍しくもヴィンテージな風合いとメロディーを持つR&Bであり、傷つき、破れかぶれになった語り手が自分の〈ダメージ〉を叫ぶ、胸を打つ楽曲である。これまでもシンガーのジョー・タルボットは個人的なトラウマや薬物依存といった深刻なトピックを歌ってきているが、この曲では彼の心の脆く柔らかい部分がより際立っている。辛いことをちゃんと辛そうに歌っているのである。別にそうしたところで問題は解決しないかもしれないが、少なくとも辛さを人に伝えることはできるし、それが連帯へと繋がっていく。

 そのアイドルズと同じくパルチザンからデビュー作『Projector』をリリースするのは、NYの新人バンド、ギースだ。メンバーは18~19歳と非常に若いバンドである。2本のギターが絶妙に音程を外しつつも、全体として美しい調和に至っていくサウンドはテレヴィジョン~ストロークスといったNYのバンドの伝統だが、ところどころプログレッシヴな展開や、R&B調の色っぽい節回しを見せたりと、折衷的でもある。そして少々照れ臭い言い方をすれば、このアルバムは非常に〈青春〉を感じさせる作品なのだ。

GEESE 『Projector』 Partisan/Play It Again Sam/BIG NOTHING(2021)

 バンドのアンサンブルは非常に洗練されているが、例えばUKのスクイッドのようなテクニカルな構築性は薄めで、いくつかの楽曲では途中でいきなりテンポを早めて突っ走ったりもする。音楽オタクのティーンが集まり、好きな要素をとことん詰め込んで曲にして、完成度には気を取られ過ぎず、とにかく自分たちにとって最高な音楽を生み出すのだ、という意思に溢れている。だから突っ走ったりもするのだ。そうしたみずみずしい美しさが、今作のかけがえのない魅力であり、そこに魔法が宿っている部分でもある。

 


【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。