カナダのマヌーシュ・スウィング系ギタリスト、エイドリアン・ラソとの共演作『悪魔の物語』を今春出し、7月にはフジロックに参加して喝采を浴びたルーマニアのジプシー・ブラスバンド、ファンファーレ・チォカリーア。『悪魔の物語』を聴いて改めて思ったのは、このバンドの音楽的懐の深さ、そしてプロダクション・ワークのクレヴァーさということだった。東欧/バルカンのジプシー系バンドは90年代以降、堰を切ったように次々と欧米市場に参入し、一大ブームを巻き起こしてきたわけだが、基本的に田舎者であり、音楽的語彙も少ないせいか、安定した人気とセールスを維持できる者はあまり多くなかった。そんな中にあってチォカリーアは常にジプシー音楽界のトップランナーであり続けてきた。それは彼らが、作品ごとに様々な新しいアイデアや手法を取り込み、音楽的マンネリズムに陥ることを上手に避けてきたからだと思う。メディアで紹介される場合、バカの一つおぼえの如く「世界最速」云々と書かれてきたが、速さや演奏技巧だけをほめるのなら、それは曲芸と同じだ。チォカリーアはサーカスや曲芸団ではなく、何よりも熟練の音楽集団なのである。そして彼らには、冷静な音楽的ディレクションのできるプロデューサー/マネジャーがついている。96年にモルダヴィア地方のゼチェ・プラジーニ村で彼らを見出し、バンドとして組み立て、世界に紹介してきた二人のドイツ人、つまり、現在ベルリンのレコード会社「アスファルト・タンゴ」を率いるヘンリー・エルンストヘルムート・ノイマンである。ヘンリーは、自分の功績も控えめに認めつつ、バンド・メンバーの努力と優秀さをこう讃える。

ADRIAN RASO,FANFARE CIOCARLIA Devil's Tale Asphalt Tango/プランクトン(2014)

 「チォカリーアと他のジプシー音楽家たちとの大きな違いは、まず、どんな音楽でもバリアを作らずに素直に受け入れ、5分で憶え、すぐ吹けるようになるということ。あと、外国のどの音楽家たちと会っても、常に敬意を持って接することができる。実はこれが、他の有名ジプシー音楽家たちにはなかなか見られない資質なんだ。多くのジプシー音楽家たちは、自分たちはスターであり、他は何者でもない、みたいな態度をとることが多いんだが、チォカリーアの連中は誰に対しても心を閉ざすことなく平等につきあえる。これは、彼らの大きな魅力であり、能力でもある」

【参考動画】エイドリアン・ラソ&ファンファーレ・チォカリーアの2014年作
『Devil's Tale(悪魔の物語)』収録曲“Urn St. Tavern”

 

 10月には、モダン・イスタンブール・サウンドの代表格ババズーラ、ラジャスターン/インドの女形ダンサー、クイーン・ハリシュと共に〈World Beat 2014 ジプシー・オリエンタル・エクスプレス!!〉に参加するために今年2回目の来日をするチォカリーア。彼らの快進撃は当分止まりそうもない。

 

LIVE INFORMATION

ファンファーレ・チォカリーア with クイーン・ハリシュ

○10/12(日) 所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール
○10/15(水)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
○10/17(金)つくば市 ノバホール
○10/18(土)KAAT神奈川芸術劇場
○10/19(日)日立シビックセンター 音楽ホール

World Beat 2014 ジプシー・オリエンタル・エクスプレス!!

○10/13(月・祝)17:30開演 めぐろパーシモンホール 大ホール

出演:ファンファーレ・チォカリーア/クイーン・ハリシュ/ババズーラ
ピーター・バラカン(プレトーク)

http://plankton.co.jp/fanfare/