〈僕らの音楽はフリーだ。お前らはMP3をダウンロードできる。キープして、プレイして、リピートして、もし嫌いならデリートしてくれ〉――これはバルカン・ブラススカやパンク、レゲエ、ヒップホップを混ぜた演奏と、メッセージ性の強い歌詞によってヨーロッパ全土でブレイク中のミクスチャー・バンド、ドゥビオザ・コレクティヴの“Free.mp3”からの一節だ。音楽業界への批判を込めた同曲を含む彼らの7枚目となるアルバムにして日本デビュー作『Happy Machine』では、東欧から西欧へ赴いた出稼ぎ労働者の心情や中東の反政府運動など、現代のヨーロッパの若者にとってリアルなテーマが英語、スペイン語、イタリア語、ボスニア語、さらにパンジャーブ語で歌われている。その音楽性をわかりやすく形容するなら〈バルカン版エイジアン・ダブ・ファウンデーション〉、または〈エレクトロニック版ゴーゴル・ボルデロ〉と言おうか。

 〈どん底集団〉を意味する名前を掲げたこのグループは、ユーゴスラヴィア紛争終了直後の2003年にサラエヴォで結成。戦争によって音楽産業が壊滅したアナーキーな土地で、着実にアルバム制作とツアーを重ね、急速にグローバル化/EU化する社会を生きはじめた地元の若者から注目を集めていく。そして2011年には英語詞のアルバム『Wild, Wild East』をワールドワイド・リリース。以来、ヨーロッパ全土のフェスを周り、行く先々のアーティストと交流を深めてきた。

DUBIOZA KOLEKTIV Happy Machine Koolarrow/HOSTESS(2016)

 『Happy Machine』はそうした彼らの活動を総括する内容であり、マヌー・チャオをはじめ、スキンドレッドベンジー・ウェッブ、バルセロナのルンバ・フラメンコ・ロック・バンドであるラ・ペガティーナほか、各国のレベル・ミュージックの雄たちがゲスト参加している。

 「彼らとはフェスで出会い、親しくなったんだ。マヌー・チャオは10年以上前からの友人だ。“Red Carpet”ではマヌーがアレンジや作曲を助けてくれた。それはどんな学校でも教えてもらえない、価値のあるレッスンになったよ。僕らはあらかじめ計画したコラボレーションというものを信用しない。無理矢理に何かをやったとすれば、それが音から聴き取れてしまうものさ」(メンバー全員に行ったメール・インタヴューより)。

 個性の強いゲストが次々と登場しても、最終的に彼らの音になっているのは、ブラスバンドなどバルカン半島の伝統音楽要素が通底して存在しているからだと思う。バルカン・ブラスは、ルーマニアのジプシー楽団、ファンファーレ・チォカリーアらを通じて日本にもファンが多い。

 「バルカン音楽を用いることで、リスナーは僕らの立場や歌詞、メッセージをより正確に理解できるようになる。それに、僕らは自分たちの伝統音楽とさまざまな現代の音楽を組み合わせるのが大好きなんだ。ブラスには素晴らしいエネルギーと表現の自由があって、凄くラウドなノイズを生み出す。まさにバルカン半島の伝統的なフォーク・パンクなんだよ」。

 サウンドはラウドだが、ハッピーなお祭り騒ぎだけでは終わらないテーマの曲が多いこのアルバムにおいて、タイトルは何を意味するのだろう。

 「〈Happy Machine〉とはバルカンの伝統的な蒸留酒、ラキヤを製造する機械のことさ。作り立ての強いラキヤは飲んだ瞬間に幸福感を得られるんだ。ラキヤの製造はバルカンの古い伝統。なのに近年、EUによって〈健康上の懸念〉を理由に禁止されてしまった。だからアートワークにはこの機械を作るための詳しい図面を載せているのさ」。

 日本をはじめ、多くの現代国家で個人のお酒の製造は違法行為。流石はアナーキーな土地から世界へと、したたかに躍進し続けてきた〈どん底集団〉である。

 


ドゥビオザ・コレクティヴ
アウミール・ハサンベゴヴィッチ(ヴォーカル)、アジス・ズヴェキッチ(ヴォーカル)、ブラーノ・ヤクボヴィッチ(DJ/キーボード)、ヴェドラン・ムジャジッチ(ベース)、マリオ・セヴァラック(サックス)、イェルネイ・サーヴェル(ギター)、セナド・スータ(ドラムス)から成る7人組。2003年にボスニア・ヘルツェゴヴィナで結成し、翌年にファースト・アルバム『Bosnian Rastafaria』をリリースする。2011年にはフェイス・ノー・モアビル・グールドが主宰するクールアロウから英詞盤『Wild, Wild East』を発表。2015年にマヌー・チャオ主催のフェス〈Esperanzah〉へ出演して話題を集める。このたびニュー・アルバム『Happy Machine』(Koolarrow/HOSTESS)をリリース。