ダクソフォンが歌う世界の名曲集。ハンス・ライヒェルの名盤も同時発売。
本当にダクソフォンだけで作ったのか?と誰もが耳を疑うはず。日本を代表する前衛ギタリスト内橋和久(ベルリン在住)によるダクソフォン・ソロ・プロジェクト3部作の第2弾。1作目『Talking Daxophone』(2017年)は文字通り、しゃべる楽器としてのダクソフォンの可能性を探った作品だったが、この2作目は歌う楽器としてのダクソフォンである。ちなみに3作目の仮題は『Dancing Daxophone』、つまり躍る(ダンサブルな)ダクソフォンになる予定だとか。メロディを歌うためには正確な音程が必要である。そしてそれは、ダクソフォン演奏において最も難易度が高いポイントでもある。ドイツの前衛ギタリスト、ハンス・ライヒェル(1949–2011)が80年代に考案したダクソフォンは、様々な形状の薄い木片をコントラバスの弓で擦って音を出す楽器である。ドイツ語でアナグマを意味する単語〈Dachs〉から命名されたとおり、野生動物の鳴き声のような奇妙な音はコントロールするのが非常に困難で、狙い通りの音程や音色を出せる演奏家は世界中におそらく数人しかいないだろう。その一人がライヒェルの薫陶を受けた内橋だ。内橋はこれまでにもエレクトロニクスやサックスなどとのコラボ作品も出すなど、この楽器の可能性を探り続けてきたが、その最もポップな成果が今回の〈歌うダクソフォン〉だと言える。なにしろ全13曲は誰もが知っている歴史的名曲ばかり。カーペンターズ“遙かなる影”やルー・リード“ワイルドサイドを歩け”をはじめ、クィーンにレッド・ツェッペリン、ブリジット・フォンテーヌ、サイモン&ガーファンクル、ボブ・マーリー、ジェイムズ・ブラウン、レイ・チャールズ……等々。マイク・オールドフィールド『チューブラー・ベルズ』を想起させる執念と妄想の多重録音から生み出される音響は、オーガニックでありながら極めてシュール。まさに唯一無二の作品だ。なお本作と同時に故ハンス・ライヒェルのダクソフォンの名盤『YUXO』(2002年)も内橋によって再発された。究極の名人芸を堪能されたし。