
“Don’t Buy The Realistic”(96年作『Telephono』収録)
現在の所属レーベルでもある、マタドールからのデビュー作でオープニングを飾る楽曲。遥か彼方から耳元に飛び込んでくるノイズと、ラジオのようなざわめきが分厚いファズギターで塗り潰されていくと、ピクシーズにも似た男女の掛け合いが始まる。あまりにもさりげない、この曲のアウトロから2曲目の“Not Turning Off”への繋ぎ。なるほど、スプーンの音響的なアプローチは最初期から一貫していたわけだ。「曲と曲の間にも何かが起こっている感じ」というフィーリングは先述の筆者による2017年のインタビューでも言及されており、ブリットは「やっぱり、アルバムはひとつの〈アート作品〉として聴かれるべきだと思うし、ビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(67年)やプリンスの作品もそうだっただろ?」とも述べていた。
“30 Gallon Tank”(98年作『A Series Of Sneaks』収録)
日本ではNUMBER GIRLやくるりを筆頭に〈98年の世代〉が盛んだった頃、スプーンはワーナー傘下のエレクトラと契約。『A Series Of Sneaks』に収録され、ワイヤーやギャング・オブ・フォーといったUKポストパンクの遺伝子を受け継ぐこのナンバーは、ミニマルなリフと軽快なドラムが幾重にも絡み合うスピード感も相まって超スリリング。
彼らを半ば強引にメジャー契約させたA&Rが逃亡し、バンドもセールス不振で早々にレーベルをクビになるなど、彼らにとっては黒歴史とも言える時代(当時の恨み節は“The Agony Of Laffitte”という楽曲で聴ける)ながら、スプーンの全作品中最高得点の9.4点をアルバムに付けたピッチフォークをはじめ『A Series Of Sneaks』の主要メディアからの評価は高い。また、“The Minor Tough”のアウトロのギターで日本古謡の“さくらさくら”を引用してみたり、以降もたびたび日本ネタをちりばめてくるブリットの遊び心も発揮されている。
“The Way We Get By”(2002年作『Kill The Moonlight』収録)
「The O.C.」や「シェイムレス」をはじめ、数多くのTVシリーズで起用された名曲。歌詞には「極貧時代を救ってくれた」と公言するストゥージズ/イギー・ポップの曲名が3回も出てくるが、転がるようにリズミカルなピアノ&ハンドクラップだけでも成立してしまう黄金比のサウンドは、〈最小限の楽器で最大限の効果を〉という課題があったら100点満点に違いなし。前作までは意識的にピアノを避けていたのが信じられないほど、ソングライターとしてのブリットの覚醒も実感できるナンバーだ。