ジャズピアニスト西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回はメガデスのラストアルバム『Megadeth』について。1983年の結成以来、40年以上にわたってきた活動に終止符を打つ本作に西山さんが聴いたデイヴ・ムステインの執念とは? *Mikiki編集部

★連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉の記事一覧はこちら

MEGADETH 『Megadeth』 BLKIIBLK/ワード(2026)

 

1月23日に発売されたメガデスのラストアルバム『Megadeth』、すでに正座して何度も聴いている方も多いと思います。

それぞれご自身がメガデスを聴いてきた歴史、思い出を振り返りながら、聴いておられることでしょう。

私もその1人……。

90年代に聴きまくった『Countdown To Extinction』、遡ってさらに聴きまくった『Rust In Peace』。NHORHMの始動と同時にメタル活動を再開して、2015年に〈LOUD PARK〉で久々に生音を浴び、そこから再びメガデスの活動を追いかけてきました。

 

昨年夏、次のアルバムが最終作になるということと、フェアウェルツアーの開催が発表されました。

まだ早いだろう、まだまだやれるだろうと思うと同時に、これまでやってきた音楽、徹頭徹尾インテレクチュアルスラッシュメタルを貫徹しているアーティストとしての態度と精度を考えると、衰える前に終止符を打つことを選ぶのは、当然のことかもと納得しました。

うちの話で恐縮ですが、私がメタルを聴きまくっているので、全くメタルに興味のない夫(プロのジャズミュージシャン)も時々何かの拍子にメタルを聴いてしまったり動画を見てしまったりするのですが、メガデスのライブ映像を見た時だけ「すごく演奏が巧いし、バンドとして良いバンドだね」と言いました。

「そやろ〜〜〜〜〜!?!? やっぱミュージシャンとして、そう思うやんな〜?」と、喜色満面でメガデスの素晴らしさを解説したことは、言うまでもありません(笑)。

個人技が抜きん出て優れている人は、いくらでもいるんです。

メガデス=デイヴ・ムステインが優れているのは、ビジョンがあってそれを実現するための技術があり、メンバーを選び、頭の中のサウンドをバンドに反映させる、〈メガデス〉を実現する執念と冷静さだと、思っています。

だから、昔から音が良い。音に思想がある。

そして、自分でもあのクオリティで歌とギターを長年演奏しているわけですよ。

これだけキャリアの長いベテランバンドで、常に最新の良い状態でバンドを維持しているのは、本当に凄いことです。

 

こちらの連載でも、何度となく取り上げてきましたが、今回の最終作も、しっかり、しっかりと聴きました。

キコ・ルーレイロが抜け、新しく参加したギタリスト、テーム・マントゥサーリ。ムステインがどんなギタリストを選んだのか、興味津々でしたが、相変わらず良いギタリストを選んできますね。キコ以上に優等生かも、と思いながら聴いていましたが、歴代ギタリストをかなり研究しているのでしょうね、“I Don’t Care”のムステインとのソロの掛け合いでしっかり重量感や華もあり、”Let There Be Shred”のムステインの歌に前のめりで対等に絡むギターも、いいです。

メガデスは、歌に割り入ってリードギターが入ってくる曲が結構ありますが、ムステインの声がギザギザしていて攻撃的な存在感があるので、リードギタリストは、絶妙にオラついた音色と完璧なタイム感が必要。ここがルーズだったり弱かったりすると、メガデスのサウンドにならない。マントゥサーリは、マーティ・フリードマンの感覚を意識しているかもしれませんね。

しかし、改めて、ムステインの刻みのソリッドなザクザク感は良いですね。まだまだいけるんじゃ……と思ってしまいますが、泣いても笑っても、これが最終作。

(撤回してくれてもいいんですよ)

 

ここから、私の超個人的感想です。たぶん、深読みしすぎのファンです。

先行で数曲公開されていた時に、〈昔のメガデスみたいで、原点回帰なのかな〉と思っていたんですよ。『Peace Sells... But Who’s Buying?』の時代のような曲で構成されたアルバムになるのかな、と。

フルアルバムが公開になり、頭から順番に聴いていき、いつものメガデスだし、『Dystopia』ぐらいからのどっしり落ち着いた雰囲気もあり、少し捻ったクリシェ使いや、少し外して置かれるコードとか、この、いつも少し外す皮肉めいた空気があるのがメガデス節だなと喜んで聴いていたら、7曲目“Made To Kill”あたりから、おや?と思い始めたんですよ。

“Made To Kill”の最初のあたり、メタリカっぽいな……。

いや、前からそういうことはありましたが、展開もなんだかそれっぽくて、意識して聴いてしまう。続く“Obey The Call”も、なんとなくメタリカ風味に聞こえてくる。コード進行の捻りはどこからどう聴いてもメガデスなのですが、“Made To Kill”で私の耳に轍ができてしまった。

“I Am War”も〈この歌詞、どこに向けて歌っているんだろう。ここでいうWarって何なんだろう〉と思いながら聴き、“The Last Note”もしみじみ歌詞を噛み締めながら、〈ムステインの人生……!〉と思いを馳せ、聴いてしまいました。

“The Last Note”、最終曲にしては、大きな展開や派手なメロディもなく、終始、音域が低いんですよね。カタルシスがないというか、歯を食いしばって、背中を丸めて下を向いて、最後のメッセージを伝えている感じ。エンディングの語りの後ろのギターも、〈あれ? ”Battery”っぽいな〉と聞こえてしまった。

そして最後の最後、メタリカのカバー“Ride The Lightning (Bonus Track)”。

これが、どこからどう聴いてもメガデスの音がする、見事な演奏なのですよ。シャープでクリアで攻撃的でヒリヒリする、メガデスのサウンド。

聴き始めた時は、“The Last Note”でメッセージ的には綺麗にアルバムが終わっているのに、なんでわざわざメタリカのカバーを入れたのだろうと思ったのですが、ムステイン本人としては絶対に必要だったのだろうし、聴き進めるにつれ、その演奏の気迫にこれは絶対に必要だったんだなと納得もしました。

メタリカのカバーが入っているからかもしれませんが、アルバム後半から最終曲に向けて、メタリカへの敬慕、愛の深さと悔恨の念のような、ムステインの情念、執念みたいなもの――それは呪いなのかもしれませんが――を感じざるをえませんでした。

(深読みしすぎの、こじらせファンの感想かもしれませんが)

世界のトップに上り詰めて、歴史的重要バンドと位置付けられるまで活動し、スラッシュメタルを切り開いた唯一無二の存在なのに、最終作、しかもセルフタイトルアルバムの最後に、メタリカのカバーを入れる。

もう十分ビッグなのにまだメタリカを意識しているのかと、どれだけメタリカに心を縛られた人生だったんだろうかと、その思いの深さはいかほどだったのだろうと考えました。

最近のインタビューでも、「最後のツアーを一緒にしたい」と言っている記事も見ましたし、「ジェイムズ(・ヘットフィールド)とラーズ(・ウルリッヒ)と関係を良くしようと努力し続けている」など、もうずっと頻繁にメタリカのことを話しています。

これからフェアウェルツアーもあり、きっと日本にも来てくれるでしょう。

最後のツアーで本当にメタリカと何かをすることがあれば、それはもうムステインがいよいよ辞めてしまう時かもしれないので、この思いが成仏して欲しいと願うと同時に、まだまだこの執着は持ち続けて音楽して欲しいな、という気持ちがあります。我ながら勝手なファンだと思います。

とりあえず、新譜を聴き、メガデスの歴史を改めて順に聴いたりしながら、ツアーのお知らせを待ちましょう!

 


■MEGADETH
RELEASE INFORMATION

MEGADETH 『Megadeth』 BLKIIBLK/ワード(2026)

リリ-ス日:2026年1月23日(金)

■完全日本国内生産180g重量盤2枚組LPレコード
品番:GQJS-90008
価格:9,350円(税込)

■数量限定スリーブ付カセットテープ
品番:GQTS-90001
価格:4,400円(税込)

■初回限定盤三方背ケース付CD
品番:GQCS-91697
価格:3,850円(税込)

■CD
品番:GQCS-91696
価格:3,300円(税込)

TRACKLIST
1. ティッピング・ポイント
2. アイ・ドント・ケア
3. ヘイ、ゴッド?!
4. レット・ゼア・ビー・シュレッド
5. パペット・パレード
6. アナザー・バッド・デイ
7. メイド・トゥ・キル
8. オベイ・ザ・コール
9. アイ・アム・ウォー
10. ザ・ラスト・ノート

《ボーナストラック》
ライド・ザ・ライトニング

《日本盤限定ボーナストラック》
ザ・ラスト・ノート(インストゥルメンタル)

 

■西山 瞳
LIVE INFORMATION
2026年2月11日(水・祝)京都・岡崎 NAM HALL
開場/開演:12:30:13:00 ※2 sets
出演:西山瞳(ピアノ)
予約:一般 3,000円/大学生以下 1,500円(当日は+500円)
TEL:075-741-8576
オフィシャルサイト:https://namhall.com/

 

RELEASE INFORMATION
西山瞳率いるメタルカバープロジェクトNHORHMの1stと2ndアルバムがリマスタリング&紙ジャケ仕様にてリリース!!

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1510R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. In the Dead of Night / U.K.
2. Walk / Pantera
3. Man On the Silver Mountain / Rainbow
4. Skin Oʼ My Teeth / Megadeth
5. Fear of the Dark / Iron Maden
6. Upper Levels / ANGRA
7. 悪夢の輪舞曲 / BABYMETAL
8. Demonʼs Eye / Deep Purple
9. The Halfway to Babylon / 西山瞳
10. Green-Tinted Sixties Mind / Mr. Big

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
小田朋美 vocal track 4
馬場孝喜 a. guitar track 5
市原ひかり trumpet track 8
橋爪亮督 sax track 10

 

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal II』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1612R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. Kings Of Metal / Manowar
2. Speed / Loudness
3. All Over The Nations / Helloween
4. Decadence Dance / Extreme
5. Beyond The Realms Of Death / Judas Priest
6. Iron Man / Black Sabbath
7. Mystery Of Babylon / 西山瞳
8. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
9. The Gift Of Music / Dream Theater
10. THE ONE -Live Version- / BABYMETAL (Bonus Track)

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
田中充 trumpet track 4
宮崎隆睦 a. sax  track 4
橋爪亮督 t. sax track 4
池田雅明 trombone track 4

冠徹弥(from THE 冠)vocal   track 4

 

西山瞳 『Echo』 MEANTONE(2024)

リリース日:2024年10月2日(水)
品番:MT-13
価格:3,190円(税込)

TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Echo エコー
2. West World ウエスト・ワールド
3. Ants アンツ
4. Arrakis アラキス
5. Raindrops レインドロップス
6. Cobalt Blue コバルト・ブルー
7. River リバー

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano, compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet (except 5)
橋爪亮督 テナーサクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute (except 5)
maiko バイオリン maiko violin (except 5)

2023年7月12-14日 群馬県高崎市TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音・ミックス・マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用 ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
写真:和田高広(ライトアンドプレイス湿板写真館)

 

西山瞳 『Songs』 MEANTONE(2025)

リリース日:2025年10月1日(水)
品番:MT-15
価格:3,520円(税込)

TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Bye For Now バイ・フォー・ナウ
2. Blue Nowhere ブルー・ノーウェア
3. Pescadores ペスカドーレ
4. Changing チェンジング
5. Standing There スタンディング・ゼア
6. SAKIRA サキラ
7. Just By Thinking Of You ジャスト・バイ・シンキング・オブ・ユー
8. Wright Flyer ライト・フライヤー
9. Bye Bye Blue Fish バイ・バイ・ブルー・フィッシュ
10. You Are Not Alone ユー・アー・ノット・アローン
11. Aprilis アプリリス
12. Fall フォール
13. Keys キーズ
14. This I Promise You ディス・アイ・プロミス・ユー
15. Blue And Blue ブルー・アンド・ブルー
16. Remains To Be Seen リメインズ・トゥ・ビー・シーン

西山 瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama  piano, compose

2025年4月28日 東京都豊島区MERCY MERCYにて録音
録音、ミックス、マスタリング:春日洋
FAZIOLI F156使用
ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
デザイン:吉岡渉

 


PROFILE: 西山 瞳 

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。