デイヴ・メニケッティのギターを聴くY&T『Black Tiger』
――2枚目はY&T『Black Tiger』(82年)です。
荒金「これは盤を持っている人は多いと思いますが、〈VOL.4〉の売りのひとつだと思います。ぜひ聴いてほしいな」
熊谷「ずっと廃盤でしたからね。
前進バンドのイエスタデイ&トゥデイはハードなポップロック路線だったのですが、81年の『Earthshaker』からY&Tに改名して、一気にハードロックサウンドになったバンドです。ルックスもいかにも80年代メタルって感じなのですが、根がポップなのでアメリカンポップスの延長線上で聴けるんですよ。ジャケットがけばけばしいから敬遠している人もいるかもしれませんが、ボン・ジョヴィやジャーニーが好きなロックファンにも聴いてほしいですね。
あと、デイヴ・メニケッティもゲイリー・ムーアのように泣きのギターを弾くギタリストなのですが、アメリカ人なので感性やスタイルがちがうんですよね」
荒金「デイヴ・メニケッティのギターって、演歌の心に通じるようなサウンドですよね。なので、日本人の心に響くと思います」
熊谷「レスポールをマーシャルに繋いだ音を活かす、トリッキーなプレイをしない正統派で、わかりやすいハードロックな音を出すギタリストなんですよね。5曲目の“Forever”がおすすめです」
――タワーレコードのコンピレーションアルバム『DEFINITELY METAL – 80’s HR/HM Edition』にも選ばれていました。
荒金「名曲です!」
熊谷「メニケッティの魅力を知るならこの曲かなって。90年代にブルースロック寄りの彼のソロアルバムが出ていて、すごく良いのでぜひ再発してほしいですね」
荒金「“Forever”の次が“Black Tiger”で、この2曲の流れが最高ですね」
カントリーやジャズロックがごちゃまぜのディキシー・ドレッグス『Free Fall』
――最後はディキシー・ドレッグスの『Free Fall』(77年)です。
熊谷「スティーヴ・モーズという、いまのディープ・パープルのギタリストが全曲作曲したオールインストアルバムです。サウンド的に、シリーズ中いちばん異色だと思います。メタルじゃなくて、カントリーやジャズロックがごちゃまぜの音楽性なんですよね。
スティーヴ・モーズは、ディキシー・ドレッグスの後にスティーヴ・モーズ・バンドで活動して、再結成したカンサスとディープ・パープルに加入するんですよ。彼は、元々マイアミの大学で音楽科を専攻していて、同級生にパット・メセニーとジャコ・パストリアスがいたそうです。だから、メタルギタリストじゃないんですけど、ジャズでは売れなくて、仕事仲間にメタル系プレイヤーが多かったので、日本では『ヤング・ギター』や『Player』で取り上げられていたんですね。テクニックもあって、音楽性も幅広いのですが、それが仇となって器用貧乏な感じもあります。
メタルとして聴くと〈なんじゃこりゃ〉となってしまうかもしれませんが、ギターが純粋に好きな人はぜひ手に取ってほしいですね。
ちなみに、彼はカンサスでの活動後に一度音楽業を辞めて、パイロットになっちゃうんです」
田中達也(タワーレコード渋谷店副店長)「ブルース・ディッキンソンと一緒だ(笑)」
熊谷「このジャケットが飛行機なのは、偶然だと思うんですけどね(笑)。
使っているギターはミュージックマンのシグネチャーモデルで、ピックアップがすごく変な組み合わせになっていて、数十種類の音色を出せるそうです。不思議な人ですね」
荒金「このアルバム、ドラマーがウィンガーのロッド・モーゲンスタインという、めちゃめちゃ上手い人なんですよね。“Cruise Control”という曲がハチャメチャな感じで、ロックファンも楽しめる曲だと思います」