タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/ポップス担当として、長年にわたり数々の企画やバイイングを行ってきた北爪啓之さんによる連載〈聴いたことのない旧譜は新譜〉。そのタイトル通り、本連載では旧譜と称されてしまった作品を現在の耳で新譜として紹介していきます。
第5回は前回に続き、今年デビュー50周年を迎えるクールスを大特集。クールスのアルバムレビュー企画の後編をお送りします。*Mikiki編集部
クールスR.C.『ビッグ・ディール』(1980年)
1979年末にピッピ(水口晴幸)が脱退、さらにトリオからポリスターへの移籍も重なったことで、バンド名を〈クールスR.C.〉と変更しての1作目となるアルバム。
冒頭の“カリフォルニア・ブルースカイ”はビッグバンド調のシャッフルビートと軽やかなコーラスが映える爽快なチューンで、〈黒〉のイメージが強かったバンドの印象を鮮烈に塗り替えている。クールス印のファンキーロックンロールの究極形とも言うべき曲で、のちにライブでも定番となる“T-BIRD CRUISIN’”も収録。ジェームス藤木の歌唱が沁みる“CHANCE’S”は山下達郎も絶賛したと言われる名バラードだ。
CDにはボートラで収められた“ラスト・ダンスはCHA・CHAで”はチャチャとソウルとロックが奇跡のクロスオーバーを起こした、ジェームスの才気漲る傑作ナンバー。
クールスR.C.『ザ・ヒット』(1981年)
初期クールスの指南役的存在だった大木トオルをプロデュースに迎え、再びNYでの録音に臨んだアルバム。シングルカットされた“SWINGIN’ BROADWAY -ブロードウェイをSWINGすれば-”はゴージャスに弾むジャンプナンバーで、フランク(飯田和男)の歌声もゴキゲンだ。でも彼のメロウサイドを好む自分としては、甘くムーディーな“愛の迷路”をより推したい。
再びチャチャのリズムを取り入れた“愛しのCHA・CHA”の軽やかさも魅力的。そして本作屈指の隠れた名曲“TV JACK -あの娘はTV JACK-”は、ノスタルジックにスウィングする至高のグッドタイムミュージック。
しかし本作を最後にキイチ(大久保喜市)が脱退し、結成時に8人だったメンバーが半分まで減ってしまった。
クールスR.C.『チェンジリング~ボーン・バスターズ・アゲイン』(1981年)
それまで若手のスタッフだった横山剣(ボーカル)とトニー萩野(ベース)が正式加入し、新生クールスR.C.としてリスタートした一枚。
横山は全12曲中6曲で作詞か作曲に関わる活躍ぶりで、ジャジーな“CHINA DOLL”や、サウダージしたラテン風の“SUMMER LOVE”など新機軸を開拓している。中でも抜群に魅力的なのが彼の処女作にして自身がボーカルを務めたサム・クックマナーの“CINDERELLA LIBERTY”で、のちにクレイジーケンバンドや野宮真貴もカバーした大名曲だ。
他にもザ・ビーチ・ボーイズを思わせる“ROCK’N ROLL MEMORY”や、ムラ(村山一海)作のアッパーなドゥーワップ“DREAM DATE”、ジェームスが切々と歌うソウルバラード“TELL ME WHY”など、バンドの活性化が窺える充実作。