洒脱なドレミファ人生の航路が一望できる作品集
ルグラン本の編著でも知られる濱田髙志の企画・監修・選曲・執筆による待望の労作箱(5CD+DVD+ブックレット)。優に1万5千曲を紡いだ作曲家の没後30周年企画、初音盤化/CD化の作品も数多収録、いずみたく(1930-1992)のタフな足跡が幅広く俯瞰できる豪華集だ。全音源を繰り返し、177頁の活字を追い、思索の逍遥を愉しんだ。編年体の主要楽曲リストを見て、作詞:野坂昭如の傑作“ハトヤホテル(CM)”が1960年、じぶんが小学校入学前から流れていた史実を改めて知る。
“文化放送QRソング”が翌61年、“明治マーブルチョコレート(CM)”が62年、いずれも少年の唇のまま口遊めるが、私的な注目点は63年の“見上げてごらん夜の星を”だ。いずみ&永六輔コンビにとってミュージカル初挑戦時(自主の初演は60年)のテーマ曲だが、3年後に同曲をブレイクさせた坂本九が共演に九重佑三子/パラキンらを迎え、東宝版として再演した際の舞台を9歳(小3)のじぶんは観ている。当時の歌唱も実況盤から収めてくれたので、発売日が偶然68回めの誕生日と重なった評者としては何よりの“歳月の贈物”となった。
が、五輪を機に漸くTV購入を許された家の少年が何故かくも彼の作品に精通していたのか、不思議といえば不思議。親和性の高い音楽の魔力だろう。五輪後、65年OA開始の「宇宙少年ソラン」や「宇宙エース」の主題歌となれば、詞・曲の刷り込みに加え、主人公たちの勇姿映像が脳裡を駆け巡る。前者は安井かずみ、後者はやなせたかしの詞。BOXの巻頭を飾るやなせとのコラボ曲“手のひらを太陽に”は、オリジンの宮城まり子+ビクター合唱団の63年版を収録。極私的な歓喜は70年の佐良直美“赤頭巾ちゃん 気をつけて”の選曲だが、折しも大江健三郎の小説「セヴンティーン」の衝撃を喰らう直前の象徴的なわが青春歌。自作自演派へ偏る分水嶺だ。“ハトヤの唄”が就学前、“水虫出たぞ(CM)”で無邪気に燥いだのが小6時……“赤頭巾ちゃん~”までの凡そ10年間、作曲家が紡ぐ稀代の向日性に少年期のじぶんがいかに照らされて育ってきたかを了解した。