TVアニメ「Vivy–Fluorite Eye‘s Song」(2021年)で脚光を浴びたシンガーソングライターの八木海莉が、ファーストシングル“Ripe Aster”に続いて待望のファーストEP『水気を謳う』を2022年4月27日(水)にリリースする。全曲を本人が作詞作曲した『水気を謳う』は、彼女の歌声を堪能できる意欲作だ(タイトルは〈水〉にまつわる曲が多かったことからつけられている)。そこで今回はライターの坂井彩花が、八木海莉の歌い手としての特質、本作で披露された新たな魅力、独特なワードセンスに彩られたリリシズムなどを解説した。 *Mikiki編集部

八木海莉 『水気を謳う』 キューン(2022)

 

凛と立つ華やかさと強さを持つ歌声

――八木海莉は、こんな顔もするのか。

4月27日にリリースされる『水気を謳う』を聴くと、そう思わずにはいられなかった。いうならば、ヤンキーだと思っていたアイツが捨て犬を放っておけなかったり、大人しく堅物だと思っていた学級委員長がめっちゃメタラーだったりしたときのようなワクワク感。今まで見ていたものは自分の固定観念にすぎなかったのだと、〈彼女に抱いていたイメージは側面の1つにすぎなかったのだ〉と、まざまざと突き付けてくる痛快さが『水気を謳う』にはある。

そもそも八木海莉は、TVアニメ「Vivy -Fluorite Eye’s Song-」で主人公・ヴィヴィの歌唱を務め、知名度をあげたシンガーソングライターだ。力強く透明感のある歌声が活きる楽曲を得意とし、エモーショナルなバラードでは特に映える。

一方で人柄は、やりたいことに真っすぐな努力家。好きなことのためなら15歳で単身上京だってするし、ボイストレーニングやオーディションにも本気で食らいつく。儚さを漂わせる雰囲気とは裏腹に、筋が一本通った強さがある。

2021年のTVアニメ「Vivy -Fluorite Eye’s Song-」のノンクレジットオープニング映像。八木海莉がヴィヴィとしてオープニングテーマソング“Sing My Pleasure”を歌っている

そんな彼女だから〈真面目にコツコツと歌唱力をあげていくのだろう〉と、心のどこかで思っていた。

しかし、『水気を謳う』に詰めこまれていたのは、〈こんな八木海莉もいるんだよ〉という〈遊び〉だ。作詞・作曲を本人が務めた楽曲たちは、アレンジの力も相まって、いろいろな角度から彼女を魅せてくれる。

なかでも、ボカロPである皆川溺をアレンジャーに起用した“お茶でも飲んで”やふるーりが楽曲提供した通常盤CDに収録されたボーナストラック“ダダリラ”は、ボーカロイドカルチャーとの相性のよさを色濃く感じさせる作品だ。思えば、幾田りら(YOASOBI)やACAね(ずっと真夜中でいいのに。)も、力強く透明感ある歌声の持ち主。もともと八木が96猫やまふまふを愛聴していたのはもちろん、彼女も前述したシンガーと同様にそういったジャンルと強い化学反応を起こせる歌声を持っていたということなのだろう。クセの強いサウンドやアレンジのなかでも埋もれずに、凛と立つ華やかさが八木にはあるのだ。

『水気を謳う』収録曲“お茶でも飲んで”