2022年4月21日、〈The OZ Tapes / 裸のラリーズ 発売記念リスニング・パーティー Fall and Rise of Les Rallizes Dénudés Vol.2〉が東京・渋谷のWWW Xで開催された。73年に東京・吉祥寺のライブハウス〈OZ〉で録音された、裸のラリーズの演奏を収めた『The OZ Tapes』の奇跡的なリリースを記念したこの催し。久保田麻琴がライブミックスした音源が披露されるだけでなく、照明による演出や貴重な映像・写真がこの日のために用意されており、裸のラリーズという存在を視覚的にも聴覚的にも体験できる特別な夜だった。ここでは、ライターの松永良平(リズム&ペンシル)が当日の様子を伝える。 *Mikiki編集部


 

静かな熱気と混沌が場内を満たしていた

渋谷WWW Xに入場する際の受付で、前に並んでいたお客さんが耳栓を希望している声が耳に入って、ふと我に帰った。そうか、これから始まるのはそういう時間だった。

〈The OZ Tapes / 裸のラリーズ 発売記念リスニング・パーティー Fall and Rise of Les Rallizes Dénudés Vol.2〉と題されたこのイベントは、もはや叶わない裸のラリーズの〈実演〉を、久保田麻琴のライブミックスで体験するというもの。素材は、73年に吉祥寺のライブハウス、OZで収録された演奏の全貌を伝える『The OZ Tapes』。アメリカのレーベル、テンポラル・ドリフト(Temporal Drift)から2枚組LPとして、海賊盤ではなくオフィシャル盤としてこの作品がアナウンスされた瞬間、世界中のあちこちで悲鳴にも似た歓喜の声があがったはずだ。

店内には、中藤毅彦撮影による貴重な写真の数々を掲示。物販コーナーでは、世界に先駆けて販売される『The OZ Tapes』だけでなく、そこに未収録の別テイク2曲を収め、この日限定で販売されるアナログ1LP『Les Rallizes Dénudés』を求めてすでに列ができていた。さらに、この日のために用意された裸のラリーズ・ハンコ(〈Les Rallizes Dénudés〉と〈The OZ Tapes〉の2種で黒と銀の2色)を押すための列もできていて、静かな熱気と混沌が場内を満たしている。

 

頭の周囲を音の粒子が漂うような立体感の特殊BGM

フロアに入ると、MJQが大きな音で流れ、ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンがふわふわと鳴っている。爆音でこそないが、ちょうど人の頭の周囲を音の粒子が漂うような立体感。こんな音響のMJQは他に聴いたことがないと感じてPAブースを見ると、すでに久保田さんによるライブミックスは始まっているようだった。そして、音で頭を囲われていると感じたのは、フロアの四方をはじめ、通常とは異なる特殊なスピーカー配置によるサラウンド環境が設定されているからでもあった。

そんな特殊BGMを聴きながら立ち位置をどこにしようかと考えていたら、テンポラル・ドリフト主宰の北沢洋祐さんを見つけた。もともと北沢さんとは、彼がライト・イン・ジ・アティック(Light In The Attic)でアメリカ在住の日本人スタッフとして細野晴臣のアナログ盤5タイトルの全米リリースや、ジャパニーズシティポップコンピレーション『Pacific Breeze: Japanese City Pop, AOR And Boogie 1976–1986』(2019年)を手掛けていたことへの取材を通じて知り合った。テンポラル・ドリフトは彼が独立して立ち上げた新レーベル。今回の『The OZ Tapes』では、彼が書いた英文ライナーの日本語訳をぼくが担当している。シティポップを通じて知り合った2人が、裸のラリーズの現場にいるというのは不思議な気もするが、2人とも時代の分岐点的な現象に興味があるということなのかもしれない。

「リハの時もすごい音だったけど、本番ではもっと出すと久保田さんは言ってましたよ」。

彼はそう言って少し笑った。この日までようやくたどり着いたことには、素直なうれしさがあっただろう。

 

裸のラリーズが降りてきた

ドアが閉まる直前、最近は映像ディレクターとしても活躍している井手健介くんが隣にやって来た。ぼくに気がついてないようだったので、軽く挨拶。井手くんは元・吉祥寺バウスシアターのスタッフで、boidの〈爆音映画祭〉にも関わっている。今回の素材での〈爆音〉の作り方について何か彼に訊こうかなと思ったが、その矢先にドアが閉まって客電が落ち、Yoshitake EXPEの演奏が始まった。

念じるようにエフェクトを積み重ねて繊細でスペーシーな音像を作り出すギター。数十分の演奏が終わると、これまでとは別次元の雷鳴みたいなギターの独奏が大音量で鳴り響いた。

あ、降りてきた。

大げさな表現かもしれないが、まさにそんな感じだった。

ジーンズが四方からの音圧でひたひたと震えるのがわかる。そして、爆音、騒音、轟音……。過剰に大きな音を表す言葉はいくつもあるが、この音はどれとも違う。外側から圧をかけてくるのではなく、耳や目や身体中の穴という穴から〈内側に入ってくる音〉だと直感した。音楽に合わせ、裸のラリーズのVJを務めていた宇治晶氏による映像が、Overheads Classic+OverLightShow ~大箱屋~が手がける照明の演出とともに、スクリーンにゆっくりと浮かび上がる。

 

身体の内側に入ってきた裸のラリーズがグルーヴを解放した

73年、OZで記録された裸のラリーズは、70年代後半以降のサウンドよりもいくぶんフォークロック的な側面が強いという印象がある。水谷孝のボーカルもかなりはっきりと聴き取れるし、今回『The OZ Tapes』に先駆けて配信リリースされた“白い目覚め”に意外なほどのフォーク性やポップな楽曲構造を見出した新しいリスナーもいるだろう。だから、その時期の素材で、今回どんな音響が作れるのか興味があった。

だが、結論から言うと、そんな興味本位な考え方は最初の数分で砕け散った。開演前とオープニングアクトで、ぼくらの耳は音の細部やうねりに対して感覚を明らかに拡張されていたのだ。〈身体の内側に入ってくる〉と感じたのは、そのせいだったかも。歌詞の世界観やそれぞれの音の意図がかなりはっきりとわかるせいもあり、感受性がひらかれて、やがてくる〈あのギター〉に対して無防備になってしまっていた。

だからといって、このライブミックスに音の暴力を感じたわけじゃない。むしろ、この音像はノイズとは真逆な気がした。曲間はブレイクなく継ぎ合わされ、やがて今どの曲を聴いているのかを書き留めようとする頭のなかのメモすら無効化されてゆく。

だが、それは隙間をなくす作業ではなく、身体や心に動きや踊りをもたらすものでもある。気がつくと、周りにいた観客の多くがゆっくりと揺れ、踊り出していた。ひとりとして同じような踊り方をしていないし、なんならリズムにぜんぜん合っていない人もいるのだが、内側に入ってきた裸のラリーズが彼らのグルーヴを解放しているんだろうと素直に思えた。

 

水谷孝は確かにそこに〈いた〉

初めはスクリーン内のVJであったはずの映像も、フロア全体にすっかりはみ出していた。終盤、意識が少し飛びそうになった瞬間、このハコがWWW Xからも渋谷からも切り離されてどこか宙を飛んでいるような錯覚に襲われた。最後は、空間を覆い尽くしていた音が舞台に置かれていた水谷孝所有のSGとマーシャル、テレキャスターとグヤトーンによる生フィードバックと響きあい、ゆっくりと収斂してゆく。スクリーンには水谷のポートレートが映し出されていた。舞台には誰もいなかったはずなのに、水谷孝は確かにそこに〈いた〉。

やがて、MJQのヴィブラフォンが聴こえてきた。ゆっくりと拍手が起こり、長く続いた。とてつもなく長時間だった気もするし、一瞬だった気もする。当時を知る人たちには、これはどういう体験だったんだろう。客数制限があったとはいえ、さまざまな世代や海外のリスナーも詰めかけたこの日のフロアの雰囲気も、かつてとは違っただろう。だが、少なくともこの異常で異質な体験は、73年の裸のラリーズを体験する最良の時間だったと信じられるものがあった。

その源泉が水谷孝の音楽だったのはもちろんだが、久保田麻琴ミックスからも強く感じたことがある。そこにあったのは、轟音伝説が独り歩きした狂気や暴力による壁ではなく、むしろ音で全感覚を包み込むような感覚。さらに言えば、73年の裸のラリーズに確実にあった物語性や優しさみたいなものだった。

「あー」と声を出し、唾を飲み込み、自分の耳の無事を確かめた。一晩寝たらツーンとする音は身体的には消えるはず。だが、この精神的な残響はしばらく消えずに残るだろう。

 


RELEASE INFORMATION

VARIOUS ARTISTS『OZ DAYS LIVE ’72-’73 Kichijoji: 50th Anniversary Collection』
レーベル:Temporal Drift
ディストリビューション:TUFF VINYL
リリース日:2022年夏頃
品番:DRFT02
フォーマット:3枚組CD

TRACKLIST
CD 1
1. Les Rallizes Dénudés – OZ Days
2. Les Rallizes Dénudés – 僕らの喜びに影がさした
3. Les Rallizes Dénudés – 造花の原野
4. Les Rallizes Dénudés – 白い目覚め
5. Les Rallizes Dénudés – The Last One_1970
6. Les Rallizes Dénudés – 記憶は遠い (ver. 2)
7. Les Rallizes Dénudés – 眩暈 otherwise My Conviction

CD 2
1. Les Rallizes Dénudés – The Last One_1970 (ver. 2)
2. Les Rallizes Dénudés – 僕らの喜びに影がさした (ver. 2)
3. Les Rallizes Dénudés – 造花の原野 (ver. 2)
4. 南正人 – 海が見えるあの丘へ
5. 南正人 – 愛の絆
6. 南正人 – 夜をくぐり抜けるまで
7. 南正人 – I Shall Be Released

CD 3
1. 都おち – Shake Your Money Maker
2. 都おち – Kansas City
3. 都おち – Twist & Shout
4. Acid Seven – 寿の朝
5. Acid Seven – もう帰らない
6. Acid Seven – 風よ吹きまくれ涙は枯れる光の中に
7. Acid Seven – 帰らなくちゃ
8. Acid Seven – ピエロがやってきた
9. Acid Seven – 横浜へおいでよ
10. Acid Seven – あの頃、僕は若かった

 

裸のラリーズ 『The OZ Tapes』 Temporal Drift(2022)

リリース日:2022年4月27日
品番:DRFT03
フォーマット:2LP
価格:6,050円(税込)

TRACKLIST
1. OZ Days
2. A Shadow On Our Joy / 僕らの喜びに影がさした
3. Wilderness Of False Flowers / 造花の原野
4. White Awakening / 白い目覚め
5. The Last One_1970
6. Memory Is Far Away / 記憶は遠い
7. Vertigo otherwise My Conviction / 眩暈
8. The Last One_1970 (ver. 2)

 

裸のラリーズ『’67-’69 Studio Et Live』『Mizutani / Les Rallizes Denudes』『’77 Live』

91年にリリースされたオリジナルアルバム3タイトルも、CD/LPにて今秋リイシュー予定。発売日、価格などの詳細は追って、裸のラリーズのオフィシャルサイトにて発表。