裸のラリーズのアルバム『’67-’69 STUDIO et LIVE』『MIZUTANI / Les Rallizes Dénudés』『’77 LIVE』が、CD・配信・LPで正式にリイシューされた。長きにわたり幻の名盤と化していた3作の再発という歴史的な快挙に合わせて2022年11月29日に東京・渋谷のWWW Xで開催されたのが、〈裸のラリーズ オフィシャル盤リイシュー記念リスニング・パーティー Fall and Rise of Les Rallizes Dénudés Vol.3〉だ。久保田麻琴によるライブミックスと照明・映像・写真が一体になってラリーズの音楽を総合的に表現した一夜の模様を、『MIZUTANI』の解説も執筆した音楽評論家の松山晋也が伝える。 *Mikiki編集部


 

リスニングパーティが今どき成立する特殊で幸福なバンド

裸のラリーズのサウンドを、水谷孝の魂を、五感で受け止めるためのスペシャルリスニングパーティの第3弾〈Fall and Rise of Les Rallizes Dénudés Vol.3〉が11月29日、渋谷WWW Xにて開催された。ファンが一ヵ所に集まって一緒に音楽を聴く(しかも金を払って)なんていう60~70年代的な牧歌的イベントが今どき成立してしまうのが、ラリーズのラリーズたる所以か。今更ながら、特殊な、そして幸福なバンドである。

4月におこなわれた前回の〈同 Vol.2〉は、73年に吉祥寺OZで録音されたラリーズの音源(未発表もの含む)をまとめたアルバム『The OZ Tapes』のリリースを記念したものだったが、今回は、OZ音源以外の唯一の公式アルバム3作『'67-'69 STUDIO et LIVE』『MIZUTANI / Les Rallizes Dénudés』『'77 LIVE』(すべて91年にリリース)のCD再発(2022年10月12日)に合わせた企画だ。

この3作のオリジナル盤は限定プレスだったこともあり、発売当時にあっという間に完売し、その後30年にわたって中古市場で異常な高値で取り引きされてきた。世界中で闇の中を漂い続けてきた無数のブートレグ音源でしかラリーズを聴いたことがない多くの現役ファンにとって、今回の公式音源再発は何よりもうれしかったはずだ。

パーティ当日、会場の物販コーナーには、12月にリリース予定のLPバージョン3タイトル(+特典12インチ盤)もできたてホヤホヤの状態で並べられ、飛ぶように売れていた。

 

ラリーズを全身で体感する細かい演出

企画側の気合いも半端ない。ミキサー卓に陣取り総指揮を執るのは今回も、ラリーズ再発音源のリマスタリングを一手に引き受けてきた元メンバーの久保田麻琴である。会場エントランスには、久保田が最近受けたインタビューを元にしたニューヨーク・タイムズの長文記事の拡大パネルも掲示されていたが、ニューヨーク・タイムズで日本のミュージシャン(それもかなりアンダーグラウンドな)に関するこれほど大きな記事が載ったのは初めてではなかろうか。ラリーズ人気の特殊性を改めて実感させられる。

そして、その記事パネルの近くには、前回同様、写真家・中藤毅彦による水谷孝の美しいポートレイト数点が展示されているし、いたるところで香も焚かれている。ラリーズを全身で体感するためにはかような細かい演出も大事なのだ。 

 

小音量のMJQを聴きながら

そういった全身体感演出は、リスニングパーティ本番でも徹底されていた。まず、暗い会場に入るとミラーボールの妖しい光がゆっくりとゆらめいている。BGMはもちろんMJQ(モダーン・ジャズ・クァルテット)だ。

実は前回のリスニングパーティの終了後、私は70~90年代ラリーズ・ライブのリアル体験者として、いくつか改善点を久保田に進言させてもらっていた。本番前のMJQのBGMは控えめな音にするとか、ストロボをもっと派手に使うべきとか。往年のラリーズのライブでは開演前BGMとしてMJQが特に頻繁に用いられていたが、端正にしてクールなサウンドは音量が控えめだったからこそ、そのリリシズムが本番でのラリーズの爆音をより劇的なものにしていた。

前回は賑やかに鳴り響いていたMJQも今回は歯医者の待合室程度の音量で実にいい。光ゆらめく薄暗がりの中、観客が小音量のMJQに耳を傾けながら静かに待っているこの秘密めいた感じにこそ、ラリーズならではのスウィートさがある。