裸のラリーズ、伝説のダブル・ヘッズ時代がついに公式ライヴ盤で登場!!

 裸のラリーズほど伝説と幻影と妄想に彩られたロック・バンドは世界的にも稀だろう。67年、同志社大学の学生たちにより京都で結成されたラリーズは、後に海外で〈シューゲイザーの開祖〉などとも呼ばれるようになる常軌を逸したノイジー&サイケデリックなサウンド(よく引き合いに出されるのがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの91年作『Loveless』)だけでなく、存在そのものがミステリアスであり続けた。約30年の活動期間中に発表された公式録音物はごくわずかだったが、常に日本のアンダーグラウンド・ロック・シーンにおける北極星として君臨し続けた。まるで少女漫画から抜け出してきたかのように麗しい、しかし悪魔的でもあるリーダー・水谷孝(ギター/ヴォーカル)の特異な容姿とカリスマ性や、結成メンバーの一人がハイジャック犯として北朝鮮に渡った(70年)というドラマティックなエピソードなども、彼らの闇と謎をいっそう深くした。

 膨大な数の海賊盤とインターネットによって熱狂的ファンが世界中で増殖していった2000年代にはすでに活動は停止していたし、91年にリリースされた唯一の公式アルバム3タイトル(数曲が収められた73年のオムニバス盤『OZ DAYS LIVE』は除く)も中古市場で異常な高値が付けられ、入手はほとんど不可能といっていい状態だった。ジュリアン・コープが日本ロックの黎明期について概説した奇書「ジャップ・ロック・サンプラー」(2007年)におけるラリーズ讃も熱狂に拍車をかけたはずだ。

 70年代初期にラリーズのメンバーでもあった久保田麻琴から「アメリカに行くと、会うミュージシャンたちが次から次へとラリーズの話をしてくるんだよ。えらいことになっている」と聞いたのは10年ほど前だったろうか。2019年夏、水谷孝と久しぶりに連絡をとった久保田がラリーズでのアメリカ・ツアー&武道館コンサートを提案すると、水谷は「ベースは細野晴臣さんがいい」と応え、それを伝え聞いた細野も快諾したという。が、そんな夢のようなプロジェクトも、数か月後(2019年12月)の水谷の急死によって幻となったのだった。

 しかし2年後の2021年秋、ラリーズの新たな扉が開かれる。水谷の死を明示し、ラリーズ作品の復刻及び新規音源発掘などを謳った公式サイトを水谷の遺族が開設し、〈The Last One Musique〉なるレーベルも起ち上げられたのだ。そして2022年には、件の公式アルバム3タイトル(『’67-’69 STUDIO et LIVE』『Mizutani / Les Rallizes Dénudés』『’77 LIVE』)がCDとLPでリイシューされ、2023年には伝説的ライヴ音源を発掘した『CITTA’ ’93』と『BAUS ’93』が登場。いずれも、久保田による丁寧なマスタリングによって海賊盤などとはケタ違いにクリアな音質になっており、世界中のファンに改めて衝撃を与えた。「ラリーズがこれだけ愛されているんだから、後追いで知った若いファンにもちゃんとした音で聴かせてあげたい」と久保田は熱く語る。70年代から90年代までラリーズのライヴを何度も体験し、ネットに上げられた海賊音源なども大量に聴いてきた筆者にとっても、水谷の歌がこれほどはっきりと聴きとれたのは初めてのことだった。破滅的な暴力性とクールなリリシズムの見事な統合……。激烈なフィードバック・ギターとヴォーカルの深すぎるエコーが一体となった巨大な竜巻の如きラリーズの暗黒ロックは、The Last One Musiqueからの一連の作品によってようやく陰影の細部まで堪能できるようになったのである。

裸のラリーズ 『屋根裏 YaneUra Oct. ’80』 The Last One Musique/Tuff Beats(2024)

 そして今回ついに登場したのが、マニアの間で〈ダブル・ヘッズ(双頭)期〉と呼ばれてきた頃のライヴ音源『屋根裏 YaneUra Oct. ’80』(CD/LP共に2枚組)だ。ラリーズには時代ごとにさまざまなメンバーが出入りしたが、あの山口冨士夫(ザ・ダイナマイツ~村八分)もその一人だった。在籍したのは80年夏から81年春のわずか半年ほどだったが、水谷のノイジーな轟音ギターと冨士夫の黒々としたブルージーなギターのコンビネーションは、他の時期のラリーズにはない特殊なグルーヴと凄みを生み出し、熱心なファンの間で発掘音源の発表が強く望まれてきた。

 冨士夫参加期のラリーズは計7回のライヴを行ったが、今回リリースされたアルバムは80年10月29日、渋谷のライヴハウス・屋根裏での演奏を丸ごと収録したものだ。7回のライヴのなかからこの音源が選ばれた理由は、卓アウトのクリアな音源が水谷宅から発見されたためだが、本作ではマニアによる隠し録り音源なども加えつつラリーズならではの荒々しい空気感と闇の深さがしっかり再現されている。こんなモンスター・バンドがかつて日本にいたという事実に、いま改めて驚くばかりだ。

裸のラリーズの作品。
左から、『’67-’69 STUDIO et LIVE』『MIZUTANI / Les Rallizes Dénudés』『’77 LIVE』、2023年の『CITTA’ ’93』『BAUS ’93』(すべてThe Last One Musique/Tuff Beats)

久保田麻琴や山口冨士夫の関連作を一部紹介。
左から、久保田麻琴の2000年作『ON THE BORDER』(BEAMS RECORDS/Tuff Beats)、久保田麻琴と夕焼け楽団の77年作『ラッキー・オールド・サン』(SWAX)、金延幸子の2023年作『Fork in the Road』(コロムビア/Tuff Beats)、村八分のライヴ盤『一九七三年一月 京都大学西部講堂』(GOODLOVIN’ PRODUCTION/Tuff Beats)、山口冨士夫のライヴ盤『REAL LIVE 1983』(GOODLOVIN’ PRODUCTION)

 


RELEASE INFORMATION

裸のラリーズ 『屋根裏 YaneUra Oct. ’80』 The Last One Musique/Tuff Beats(2024)

■配信
リリース日:2024年8月16日(金)(予定)
配信リンク:https://linkco.re/YvX0cfs3
※リリース予定日以降、こちらのURL(QRコード)に配信ストアへのリンクが表示されます。