ブルックリンの人気バンド、グリズリー・ベアのダニエル・ロッセンが〈Warp〉より初のソロ・アルバムをリリース!
カンタベリー系ジャズ・ロック、クラシックの室内楽、ある種のブラジル音楽……これらの他にもさまざまな音楽が時空を超えて出会い、複雑に絡み合っている。各曲はほのかな憂いを含んだ歌声とメロディが軸となっているが、アンサンブルは凝りに凝っている。音世界の多様性と実験性は、まさにソロ・アルバムならでは。何の話かというと、グリズリー・ベアの中心人物、ダニエル・ロッセンの『ユー・ビロング・ゼア』のことだ。
グリズリー・ベアは、00年代後半にダーティ・プロジェクターズやアニマル・コレクティヴ等と共にブルックリンのインディ・ロック・シーンを盛り上げたバンドのひとつ。ダニエルは、バンドでは主にリード・ヴォーカルとギターを担当している。ただし、もともとマルチ楽器奏者。しかも『ユー・ビロング・ゼア』はコロナ禍で制作された初のソロ・アルバムだけに、ダニエルは多彩で繊細なギターワークに加えて、アップライト・ベースやチェロを含む大半のパートを自分で演奏している。
興味深い事実を挙げておく。ブラジルのミナス新世代の先輩格であるクリストフ・シルヴァは、「ラティーナ」誌の2014年5月号に掲載されているインタヴューで、こう語っている。「グリズリー・ベアとダーティ・プロジェクターズのことを知ってから、彼らの音楽をひっきりなしに聴いているんだ」。一方、ダニエルは、グリズリー・ベアやデパートメント・オブ・イーグルスでの自身の曲に、60~70年代のレアなブラジル音楽からの影響を忍ばせてきた。そして本作には、70年代前半のマルコス・ヴァーリやエグベルト・ジスモンチに通じる要素も見出せる。なにしろ、どの曲もじっくり作り込まれているものの、それでいてリズムは変幻自在で、即興的な要素も顔をのぞかせる。それこそカンタベリー系ジャズ・ロックや昨今のミナスの音楽のように。これほど音楽的に尖っていながら、心の柔らかい部分に触れてくるシンガー・ソングライターのアルバムは、きわめて稀だ。