スタイリッシュなビートが程良い温度感で脈打ち、過去と未来を繋ぐ艶やかなローファイ・ソウルが全身を包み込む。そのひとときはとても甘く、とても淡い……

 ブラック・コンテンポラリーや80sプリンス流儀のファンクを、今様のインディー感覚で咀嚼したようなサウンドを耳にすることの多い今日この頃。ブラッド・オレンジ、キンブラ、ジャネル・モネイが、そうしたトレンドの代表選手と言えるが、本稿の主役であるカインドネスことアダム・ベンブリッジの存在も忘れちゃいけない。

 UK出身、現在32歳。インド系の母親のもとに生まれ、映像作家としての顔も持つ彼は、フェニックスやカニエ・ウェスト、クローメオ仕事で有名なフィリップ・ズダール(カシアス)を共同プロデューサーに迎え、2012年にファースト・アルバム『World, You Need A Change Of Mind』をリリースする。トロ・イ・モワ以降のチルウェイヴ文脈とリンクしながら、その独創的なクロスオーヴァー感覚を発揮したディスコ・グルーヴが絶賛され、同作はQ Magazineなど世界中のメディアで年間ベスト・アルバムに選出されることに。また、それと前後して〈サマソニ〉で祝祭的なパーティー空間を作り上げたことも鮮明に記憶にされるところだが、あれから2年、アダムはどんなふうに過ごしていたのだろうか。

 「たくさん旅をしたし、DJとしても活動の幅が広がったね。それが自分のクリエイティヴィティーに良い影響を与えてくれたと思うよ。家族や恋人といっしょに、初めてインドにも行ったんだ。すごく楽しかった。みんなの抱くインドのイメージは、きっと〈ヒッピー〉〈ヨガ〉〈ダンス・ミュージック〉とかそういう感じだよね。でも実はそれとは違う側面があって、東京みたいに都会的だったり、エキサイティングなシーンがあるんだ」。

KINDNESS 『Otherness』 Female Energy/BEAT(2014)

 度重なるツアーと念願のインド詣でを経て、彼は多くの音楽仲間と出会う。このたびお目見えした待望のセカンド・アルバム『Otherness』では、新たに共同プロデューサーとしてブルー・メイを、リミキサーに大御所のジミー・ダグラスを起用。さらに〈ポスト・アリーヤ〉とも形容されるケレラ、エイミー・ワインハウスのバック・コーラス経験も持つアデ、ロイクソップとのコラボも話題のロビン、ガーナ人ラッパーのマニフェスト、グリズリー・ベアのクリス・ベア、そして盟友ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズといった多種多様なゲストが華を添えているのだ。

 「最初のレコードを完成させた時は、フィリップと僕の2人だけだった。でも、今回はもっとソーシャルになりたい欲求が出てきたんだよね。人と楽しみながら音楽を作ったり、笑い合って、刺激し合いながら楽曲制作をしたいという思いがあったんだ。ほとんどが友人とのコラボだけど、ロビンと仕事をするなんて夢にも思わなかったよ! アデは男性シンガーのなかでいちばん好きな声の持ち主だし、ケレラは頭の回転が速くてアイデアも直感的。彼らにインスパイアされることで、歌詞やメロディーが良い方向に導かれたのは確かだね」。

 そうアダムが述懐するように、アルバム全編を包み込むフィーリングは実に自由で、楽しげで、そして親密だ。フィン・ピーターズのサックスを連れ添って新型アフロビートを聴かせるオープニング・ナンバー以下、裏打ちの16ビートを基調としたリズム・パターン、とろけるほどにスウィートなシンセ、耳通りの良い主役のソフトなヴォーカルによって、軽妙洒脱なフューチャリスティック・ソウルを展開。レコーディングでは徹底して人力にこだわり、もしかしたらそこは多くのミュージシャンを起用したダフト・パンクの『Random Access Memories』を意識したのかもしれない。最後に、〈異質なもの〉を意味する『Otherness』というタイトルについての本人コメントを紹介し、この原稿を締め括ろう。

 「前作のタイトルが長かったし、短いのがいいかなと思ってこれにしたんだ(笑)。あと、韻を踏んだ言葉だったし、同時にアルバムのサウンドが持つフィーリングと結び付いた言葉でもあったからさ。ノーマルな枠に囚われない、他とは違う価値観を探求する……というか。時にこの言葉はネガティヴと見なされるけど、僕はそれをポジティヴな言葉として再定義したかったんだ」。

 

▼関連作品

左から、カインドネスの2012年作『World, You Need A Change Of Mind』(Female Energy/Polydor)、マニフェストが参加したロケット・ジュース&ザ・ムーンの2012年作『Rocket Juice & The Moon』(Honest Jons)、2014年にリリースされたロビン&ロイクソップのEP『Do It Again』(Dog Triumph)、グリズリー・ベアの2012年作『Shields』(Warp)、ブラッド・オレンジの2013年作『Cupid Deluxe』(Domino)
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