2022年5月20日に約2年振りのニューアルバム『Entre Eux Deux』をリリースしたメロディ・ガルドー。ラリー・クラインのプロデュースでスティングとの共演も大きな話題を呼んだ前作『Sunset In The Blue』(2020年)ではヴィンス・メンドーザによる華麗なオーケストレーションがサウンドの核となっていたが、今回は打って変わってフィリップ・バーデン・パウエルが弾くピアノとのデュオというミニマルな編成による作品となっている。現在ヨーロッパツアー中の彼女だが、その合間にインタビューに応じてくれ、アルバムや自身のインスピレーションについて語った模様をお届けする。

MELODY GARDOT, PHILIPPE BADEN POWELL 『Entre Eux Deux』 Decca/ユニバーサル(2022)

 

フィリップの音楽、プレイ、楽曲に恋をした

――前作『Sunset In The Blue』でのリモート中心だったレコーディングとは違い、今作はフィリップ・バーデン・パウエルと2人でスタジオに入りじっくりと制作されたと思います。コロナ禍でツアーや対面のレコーディングが暫く出来なかった反動で、前作と比べてよりインティメイトなサウンドや制作を選んだのかなと感じたのですが、今作に至る経緯を教えていただけますか?

「この長く続いた隔離状態から、世の中の人は全員、生理的に人との触れ合いみたいなものに飢えてたと思う。でもそういう思考的経緯を経て今回のアルバムに至ったということではなくて、最初は〈叶いそうもない夢〉にすぎなかったの。フィリップの音楽、プレイ、楽曲に恋をして、彼と仕事がしたいと願ったところ、たまたま二人ともパリにいたのでそれが叶った。何よりも彼のミュージシャンシップに私が惚れた、というのかしら、そういうことだったの」

『Entre Eux Deux』のメイキング動画

――あなたの方からフィリップにアプローチしたんですね?

「そう言ってしまっていいのか……気づいたら私の家の玄関にそのチャンスが置かれていたようなものだったから(笑)。

フランスのTV番組で彼と一緒に出た時、画面に映る彼の顔から、穏やかさ、エネルギー、落ち着きを感じ……音楽に包まれるみたいに演奏ができたの。収録を終えて〈私と一緒にアルバムを作らない?〉と訊いたのよ。

私自身、ピアニストだから作曲をする時は自分でピアノを弾くわ。その私が自分以外のミュージシャンに〈私の楽器を弾いてくれる?〉と訊くこと自体、普通はしないことだった。でも彼のミュージシャンとしての才能は、私にそれでいい、それを楽しみたいと思わせた。

レコーディングをしながら、ふと横を見る。彼が今まさにもたらしている色彩やアイデアに、楽しい気分にさせられた。彼に対しては敬服するというか、私がフィリップのファンなの。だから聴いていられるだけで嬉しいのに、一緒に何かができたのは大きな喜びだった」

――ピアノと歌のみで他の楽器は入っていないというシンプルな編成にしたのは、最初からそういう考えだったのですか? それ以外の形もあり得たのでしょうか?

「いいえ。二人のアーティストが出会い、何かを一緒にやるというだけ。ボイスとピアノだけで。それは最初からわかっていたわ。トニー・ベネットとビル・エヴァンスみたいに、とでも言うのかしら。

私が好きなアルバムはオールドスクールのアルバムが中心で、チャーリー・ヘイデンはその一人。彼から学んだことは大きかったわ。私にとって音楽のゴッドファーザー(名付け親)のような存在よ。チャーリーがキース(・ジャレット)やパット(・メセニー)と作ったアルバムとか。

往々にしてデュオの良さは見過ごされがちだと思う。インストゥルメンタル奏者って、どうしてもギターとベースとピアノと……という典型的なものばかり。そうではない、power of two(二人によるパワー)という考え方よ」