本当の豊かさとは何だろう──幾多の苦難を味わい、誰よりも生命の大切さを知っている彼女だからこそ表現できる音楽。現代社会の闇を切り取ったこの〈ブルース〉を、我々はどう受け止めようか!?

 メロディ・ガルドーからの知らせはいつも突然Twitterで届く。今回のツイートには、〈新作『Currency Of Man』が素晴しい出来になったから聴いてね〉と書かれていた。なるほど、このニュー・アルバムにはいままでに出会ったことのない、その足ですっくと大地に立ち、表現する彼女がいる。ブルースの粒子が散りばめられ、肯定的な明るさと哀愁を併せ持った歌声がある。素晴らしい。ノラ・ジョーンズにメガ・ヒットをもたらしたジェシー・ハリス作曲の“Don’t Misunderstand”以外は、すべてメロディ自身の作詞/作曲によるものだ。

MELODY GARDOT Currency Of Man Verve/ユニバーサル(2015)

 「今作では、言いたいことを言わなくてはいけないと思った。それほど世界には問題が山積している。ミュージシャンである前に、ひとりの人間としての思いが膨れ上がったのね。人間の価値、生命の重さは何にも代えがたいもの。そうであるのに、いまだに世界には物質主義が蔓延し、生命をおろそかにすることばかりが起こっている気がする。生命よりお金を優先して戦争を起こすなんて、何という政治でしょう。差別主義も酷い。いま私はパリ郊外とリスボンに住んでいて、拝金主義がヨーロッパ以上にまかり通っているアメリカには長く帰っていなかったの。それが、2~3年ぶりにLAに長期滞在してつくづく感じたんだけれど、21世紀だというのに人種差別的な事件が起き、社会に蔓延している。その差別は、性差や年齢にも及んでいる。こんな情勢を目にしては、音楽と自分の思想を別々に持って展開するということは、もう考えられない。私、決心したのね。歌で〈オーディオ・ジャーナリズム〉をやろうと。そして、制作にあたったの。音楽を演っていると、〈ユニバーサル・ハーモニー〉といったものが信じられるようになる。音楽がハーモニーを生むように、生命のほうが物質より大事だと目覚めさえすれば、人間も全世界的な調和を生み出すことができるはず。そんな思いの数々を届けたい。それが、このアルバムを作った意図なの」。