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Photo by Sam Neill

ダイナミズムはそのまま、よりソリッドに統一された『What Went Down』(2015年)

『Holy Fire』をリリースする頃には、フォールズは国内外で、すっかりライブバンドとしての定評も確立。筆者は、2014年にEX THEATER ROPPONGIで行われた東京公演も観たのだが、その時点でインディ―バンドとしては別格級のパワフルで力強い演奏を見せていていた(一方で、当時はパンク的な破れかぶれな雰囲気もまだ少し残っていたが、5月のライブではその点さえも払拭されていた)。

FOALS 『What Went Down』 Transgressive/Warner Bros.(2015)

『What Went Down』は、『Holy Fire』までに確立したアリーナ級のライブバンドとしてのダイナミズムは保持したまま、よりソリッドなロックサウンドへと向かったアルバムだった。プロデューサーのジェイムズ・フォードは、前述のアークティック・モンキーズをデビュー初期から支えてきた実質的な共同作業者のような存在であると同時に、マムフォード&サンズやフローレンス・アンド・ザ・マシーンの作品も手掛ける、時代のヒット請負人でもあった。結果的に完成したアルバムは、フォールズのディスコグラフィーの中でも、最もアルバムとしての統一感が感じられるものの一つになっている。

本作からは“Mountain At My Gates”と“What Went Down”の2曲が特に頻繁に演奏されている。ここでのオススメトラックは前者で、シミアン・モバイル・ディスコ名義でミニマルなダンス作品を多く発表しているフォードの手腕を感じる、フォールズ流のミニマルファンクソング。ライブで観ると、その演奏構成の巧さが一層際立つ。

超入門オススメトラック
“Mountain At My Gates”

 

音楽宇宙を2枚組という広い空間を使って最大限に探求した大作『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1 & 2』(2019年)

実際には各々1枚のアルバムとして別時期に発売された『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1 & 2』だが、レコーディングや完成の時期は同じであり、本稿では2枚組のアルバムとして扱う。

FOALS 『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1』 Transgressive/Warner Bros./ソニー(2019)

FOALS 『Everything Not Saved Will Be Lost Part 2』 Transgressive/Warner/ソニー(2019)

ビートルズの68年のセルフタイトル作(通称『White Album』)や、クラッシュの『Sandinista!』(80年)がそうであるように、優れたロックバンドは、自らの中に渦巻いている創造性を最大限に解放できる場として、しばしば2枚組や3枚組の作品を、特にキャリアの中盤に作り上げる。『Everything Not Saved Will Be Lost』は、まさにそういったナラティブを現代のバンドとして引き受けたようなアルバム。制作開始直前にはオリジナルメンバーのワルター・ジャーヴァースが脱退するという事態にも見舞われたが、バンドは初のセルフプロデュースという形で、この大作を完成させた(実質的な作業の大部分は、フィリッパケスと共同プロデューサーのブレッド・ショウが担当したようだ)。

電子音楽の影響が大きい『Part 1』と、よりギターヘヴィな『Part 2』という形で、各アルバムをキャラクター分けすることも出来る。が、やはり本作の本質は、フォールズがメンバー自身の音楽的な宇宙を、2枚組という広い空間を使って最大限に探求した点だと言えるだろう。過去2作で自身に課していたように見える〈アリーナ級のバンド〉というキャラクター的な枠組みも、本作では、ほとんど無視されているように思える。また、作品のテーマ面でのインスピレーションは、現代における地球温暖化などの自然環境の危機であり、アルバム発売後の2021年には、初期メンバーの一人だったエドウィン・コングリーヴが、経済学で現在の環境危機へ対抗することを目標に大学院で学び直すとしてバンドを脱退している。

冒頭にも書いた通り、本作の発表後の2020年にパンデミックに突入したこともあり、ツアー等でも十分にフォーカスが当たっていないこのダブルアルバムだが、直近のライブでは“In Degrees”“Exits”“The Runner”“Black Bull”等の曲が特に頻繁に演奏されている。ここではオススメトラックとして、〈バンド史上最もヘヴィ〉と謳われる“Black Bull”をセレクトした。この曲は、『Holy Fire』以降、バンドが進めてきたギターヘヴィなロックの追求の最極点であり、フォールズのライブの雰囲気をてきめんに写しとった一曲でもある。

超入門オススメトラック
“Black Bull”