©Atiba Jefferson

STILL BELIEVE
インターポールが待望のニュー・アルバム『The Other Side Of Make-Believe』を完成! 〈オルタナティヴ〉や〈インディー〉といった形容を要さないストレートなロック・バンドとして、結成から四半世紀を経た彼らはいまこそが最高だ!

 「人間の精神の気高さは、立ち直ることにある。確かに、すべてがおかしくなってしまったことについて焦点を当てることもできるけど、いまこそ希望を持つことが必要だと思うし、インターポールをインターポールとして成立させている、〈まだ信じられる〉という感情も必要だと思った」(ポール・バンクス、ヴォーカル/ギター/ベース)。

 マンハッタンで結成されて実に25年、マタドールでのデビュー作『Turn On The Bright Lights』から20年、トリオになってからも10年以上の時が経っているインターポールだが、カリスマ的な支持を集めてきたバンドとしての威信はいまも衰えることはないし、このたび完成を見た7枚目のアルバム『The Other Side Of Make-Believe』を聴く限り、その評価はさらに高まる一方だろう。デイヴ・フリッドマンと組んだ『Marauder』(2018年)以来となる本作は制限された状況で制作をスタートした。ただ、遠隔でのやりとりを余儀なくされた初期段階において、各人が新たな視点で作曲に臨んだことは大きなプラスになったそうだ。

INTERPOL 『The Other Side Of Make-Believe』 Matador/BEAT(2022)

 「こんな状況だったけれど、俺たちはそれを上手く逆手に取った」(サム・フォガリーノ、ドラムス/パーカッション)。

 「単独での作業は、最初は辛かったけど、俺たちにとって明らかに新たな章の幕開けとなった」(ダニエル・ケスラー、ギター/キーボード)。

 そんなプロセスを経て新曲を練り上げるべく昨年初めに英キャッツキルで集結した3人は、同年末にロンドンでレコーディングを完遂。これまでNYでの録音が主だった彼らだったが、制作環境の変化は重鎮フラッドとの初タッグや、以前もエンジニアとして関わったアラン・モルダーとの再会にも繋がったというわけである。言うまでもなく、困難な状況下でポジティヴな側面を見るという行為は、冒頭に挙げたアルバムのテーマそのものだ。

 「優しく共鳴する感情を探し求めるプロセスは、俺を10代の頃に連れ戻してくれたよ。まるで自分が変革されたみたいで、陶酔感に近いものがあった。釣り竿の先に〈目的〉という魚が食い付いたような珍しい感覚を覚え、それを巻き上げなければと思ったんだ」(ケスラー)。

 先行シングルでもある冒頭の“Toni”からして新しいインターポール像が浮かんでくる。世界中の日常に不穏な空気が漂うなか、それでも信じることを諦めなずに前を向こうとする姿は実に印象的だ。往年のルー・リードやボウイを連想させずにはおかない“Fables”、達観したようなピアノの響きを伴った“Something Changed”、勇ましいドラミングが牽引する“Renegade Hearts”、ストイックな“Big Shot City”など、現代社会への違和感や嫌悪感を忍ばせた言葉は当然のようにシリアスながらも、音構築のドラマティックな親しみやすさが彼らの表現に一面的ではない深みをもたらしている。簡素で誠実で耳馴染みのいい、この先のインターポールにとっての新たな代表作が誕生したことは間違いない。