明るく生きる物語
萌映にとってのルーツだという宇多田ヒカル“SAKURAドロップス”のシューゲ・カヴァー以降は、ゆったりとしたBPMに乗せて過去に想いを馳せるような、クレナズムらしい楽曲が並ぶ。特に“紫苑”はそのタイム感といい、ギターの音像といい、初期の作風を連想させるもので、こういった曲がファースト・アルバムに収録されていることにも意味があるように思う。
「“紫苑”は2~3年前に作った曲なんですけど、過去のデモをみんなで聴き返したときにこの曲が選ばれて、そこから歌詞を書き変えました。もともと亡くなった知り合いに向けて書いた曲で、もっと抽象的な歌詞だったんですけど、今回書き変えるにあたってもう少し具体的な言葉を入れることにしました。ただ、感じ方はそれぞれなので、自由に聴いてもらえれば」(しゅうた)。
〈死〉を描いた“紫苑”を経て、アルバムの最後に置かれたのは〈生〉を描く“わたしの生きる物語(Live Ver.)”。磨き上げられたバンドの演奏に乗せて、萌映がエモーショナルに独白し、ラストは〈前向きは無理でも それでも少しは未来がある/明るく生きる物語〉という言葉で締め括られる。
「歌詞を歌メロに乗せるのが難しくて、だったら語りにしたほうがいいんじゃないかと思ったんです。試しにやってみたら予想以上に良くて。あと、この曲は去年のワンマン・ツアーのときからやってて、ライヴでめちゃめちゃ進化した曲なので、その進化を見せる意味でも、ライヴ・ヴァージョンで収録することにしました」(まこと)。
「歌詞を書いたのはまことだけど、自分自身とすごく重なるところがあるんです。どちらかというとネガティヴで、いまもいろんな葛藤を抱えている。だからこそ、この曲は自分の感情を全面に出せて、しかもライヴごとに表情が少しずつ違うんですよね。この時期は個人的にいろんなことが重なった時期で、いちばん痛々しい部分が出てると思うんですけど、でもそれを聴いてもらうのがいいんじゃないかなって」(萌映)。
「ライヴ自体も活動のなかでどんどん変化していて、もともと観る人を突き放すようなライヴをしてたんですけど、最後には希望を持って帰ってもらえるようなライヴでもいいんじゃないかと思うようになって。〈明るく生きる物語〉には、その変化が表れていると思います」(しゅうた)。
四季を巡るように4枚のミニ・アルバムを発表し、この初作でひとつのサイクルを終えたクレナズム。きっとまた、ここから新たな季節が始まっていくに違いない。
「今作のジャケットに載せたカレンダーは、私たちが活動を開始した月、2018年5月のものなんです」(萌映)。
「アルバムには昔からある曲も入っています。これまで大変なこともあったけど、これらの曲たちが僕らをいろいろなところに連れて行ってくれた。『日々は季節をめくって』というこのタイトルはすごくしっくりきますね」(けんじろう)。
過去作を紹介。
左から、2018年のミニ・アルバム『rest of the dusk』、2019年のミニ・アルバム『In your fragrance』(共にMMM)、2020年のミニ・アルバム『eyes on you』、2021年のミニ・アルバム『Touch the figure』(共にMMM/RED)、クボタカイの2021年作『来光』(SPACE SHOWER)、100回嘔吐が多くの編曲を手掛けたずっと真夜中でいいのに。の2022年作『伸び仕草懲りて暇乞い』、宇多田ヒカルの2002年作『Deep River』(ユニバーサル)